対談:日本の農産物を世界につなぐグローバル・バリューチェーン展開の方向性

「アグリホールディングス×日本ユニシス」――“気鋭の発想”と“経験値”のコラボで日本の農業と食の課題に挑む

アグリホールディングス株式会社は、日本、シンガポール、ニューヨーク、香港に拠点を置き、日本産品のオールジャパンを実現するための輸出、物流、流通、プロモーション支援プラットフォームを構築、「農業と食のグローバル・バリューチェーン展開」に挑戦するスタートアップ企業だ。2018年5月、日本ユニシスはアグリホールディングスと業務資本提携に関する合意書を交わし、農業・食分野での共同事業化の可能性について日々検討を重ねている。そこからどんな未来が切り開かれていくのか。同社の代表取締役社長、前田一成氏と、日本ユニシス株式会社取締役常務執行役員CMOの齊藤昇が語り合った。(以下、敬称略)

新時代のビジネスモデルで
地方と世界をつなぐ基盤を

齊藤 初めてアグリホールディングスの事業について説明を伺ったときは、こんな大胆な構想を持つスタートアップがあったのかと衝撃を受けました。事業ドメインとして、日本の農業や食にフォーカスして、アジア諸国や世界にサプライチェーンを広げようとされている。今後どのように日本の農業や食品の価値を守っていくかは、重要な社会課題の1つです。ビジネスエコシステムを推進している日本ユニシスグループとしては、ぜひお付き合いをさせていただきたいと思いました。

アグリホールディングス株式会社
代表取締役社長
前田一成氏

前田 サプライチェーンの川上である農業の支援から、川中の輸出、流通、川下の食の販売、消費まで、日本の農業のグローバル・バリューチェーンをつくることが、私たちのミッションです。私は20代のときにIT関連の企業で海外企業とも仕事をしていたことがあり、そのとき、1つのモデルを基にみんなで一緒にプラットフォームをつくっていくことで、大きな結果を生み出すという経験をしてきました。

今回のミッションも、小さなスタートアップが挑むには壮大過ぎるような印象を持たれるかもしれませんが、全部自分たちでやるのではなく、モデルをつくってさまざまな企業と協力していけば十分に実現できると考えています。

日本ユニシス株式会社
取締役常務執行役員 CMO
齊藤昇

齊藤 地方の加工品メーカーの食品を世界に広めていくような事業もされているのですよね。

前田 地方のニッチなメーカーの食品や日本の旬のものを、海外のバイヤーやシェフにつなぐという仕事もさせていただいています。例えば、福井県のうに醤油をイタリアンのシェフに紹介したり、沖縄の豆腐ようをイタリアンやフレンチに活用してもらったりしています。どこの国でも新しい味覚の開拓には積極的なので、日本食にはそうしたチャンスがたくさんあると感じます。

ただ、ニッチなものはロットをまとめるのが大変で、細いものをどう束ねていくかというのが目下の課題です。そのために輸出のハブづくりにつながる事業に最も注力しています。

大企業とスタートアップの
双方が期待するものとは

齊藤 当社はIT企業なので、最初にスタートアップ企業の支援に携わった際、私たちのシステムを使ってもらえないかというようなことを考えていたんです。でもそれではいけないんですよね。そのスタートアップ企業が描こうとしている世界観をどう共有して、どう一緒に育てていけるかを考えるようになりました。

日本ユニシスグループには、食品業界や物流業界のお客さまも多くいらっしゃいます。アグリホールディングスとお客さまをつなぎ合わせて大きなビジネスエコシステムをつくることができれば、社会全体のメリットになると思います。

また、社員たちがスタートアップの皆さまの考え方や生き方から刺激を受けることも重要です。その結果、アグレッシブな社員へと成長していってくれたらと期待しています。

前田 提携する前に、私たちが思い描くグローバル・バリューチェーンをどうすれば構築できるかを、ずっと日本ユニシスと一緒に協議していました。私たちが打ち立てた大きなビジョンについて、協議しながらブレークダウンしていく過程が、非常に有意義でした。

ベンチャーは生み出すところに最もリソースを投下して形にする、システムもビジネスも「プロトタイピング」のスピードは速いですが、その後、継続稼働できるように落とし込むところは弱い。ビジネスは生み出した後がスタートであって、そこからどう運営して投資を回収していくのかというサイクルの構築はまだまだ力不足です。

日本ユニシスグループの強みであり、社会的に信頼されているシステム実装力と、私たちのスピード感をうまくミックスできると、非常に強力な競争力を持つビジネスが育てられるのではないかと期待しています。

齊藤 シンガポールのおにぎり屋のSAMURICEを視察させていただいて一番驚いたのは、現地で働くスタッフの熱量というか、前向きさがすごいことです。やはり事業は、強い思いを持ってやり続けないとできないということを肌で感じました。

大手企業では、自分が携わった事業がもし失敗したとしても命までは取られないといった一種の甘さがあります。でもアグリホールディングスはそうじゃない。何事も吸収しようとするひたむきな姿勢に、胸を打たれました。

SAMURICEから見える
スタートアップの発想力

シンガポール中心部のフードコート「China Square Food Centre」で営業中の
日本米おにぎり専門店SAMURICE

齊藤 SAMURICEは、現在シンガポールとニューヨークに出店していますが、なぜ「おにぎり」をシンガポールで売ることになったのでしょうか。

前田 事業の着想は、日本のお米を海外の人にも食べてもらおうというところからでした。香港とシンガポールは、関税がない上、国内に農業がありません。とはいえ当時の私たちの資金はたった300万円ほど。わずかな資本でお米を食べてもらうためにできることを考えたら、すし屋じゃなくておにぎり屋だったのです。

日本のお米農家からシンガポールへのサプライチェーン、バリューチェーンを自ら実践してみせたのがSAMURICEです。

齊藤 現地に伺ってみると、本当に手作業でやっている業務がたくさんありましたね。シンガポールの屋台村であるホーカーでおにぎりを販売していて、食材はスケートボードでお店に配達するんですよね。大手企業ではとても考えられない、まさにベンチャー的な動き方ですね。

前田 狙いがあってのことなんですよ。シンガポールだけじゃなく、ニューヨークや香港、バンコクなど世界都市といわれるような市街では、和食や日本食材を扱う飲食店は中心地に密集しているんです。渋滞の問題もありますし、そこに効率的に配送するにはわざわざトラックで配送する必要はないのです。

齊藤 発想の秘訣はなんですか。

前田 常に先端はどこか、ブレークスルーポイントはどこかを考えています。大手がやっていることと反対のこととか、やれないことをやってしまうとか。SAMURICEがまさにそうですが、最初から消費者に近いところに出て、一番分かりやすい例をつくってしまうというようなことです。

そうすることで、強い説得力を得られます。産地から海外の消費者のところまで、サプライチェーンやバリューチェーンを結ぶというのは、これまでなかなか実現できなかった考え方だと思います。

シンガポール市内のオフィスビル内で弁当販売を手がける店舗も

グローバル・バリューチェーンを実現する
2つのポイント

齊藤 今後さらにグローバル展開していくにあたり、どのようなことに注力していきたいですか。

前田 現在、日本では輸出ハブの構築に注力しています。海外はシンガポール、香港、ニューヨークに自社の拠点がありますが、そのほかの国についてはパートナーシップによる展開で、ハブ&スポークの形を拡大し、グローバルのサプライチェーン、バリューチェーンを構築していこうと思っています。

JAPAN POINTのWebサイト

私たちが食材を卸している飲食店では、消費者がポイントをためられる「JAPAN POINT」というアプリをシンガポールにおいて提供しています。一方JAPAN POINTから得られた消費者情報を、直接産地やつくり手に届けることも行っています。つまり食べてもらう喜びだけでなく、消費者のニーズをつくり手に直接伝えられるわけです。つくり手はフィードバックされた情報を基に、品質向上や商品開発に生かすことができます。シンガポールに限らず香港や他国にも広げ、より多くの人とお店にJAPAN POINTを知っていただき、使っていただくことができれば、産地の活性化につながっていくと考えています。

また、今後はJAPAN POINTの加盟店が提供する料理メニューのデータベースを構築していきます。

食材を消費するときの完成形となるのがメニューです。消費者はメニューを注文し、生産者はそのメニューに使う食材を生産しているわけです。これから最も重要なオブジェクトはこのメニューづくりであり、メニューのデータベースが資産になると考えています。これをベースに世界中でサプライチェーン、バリューチェーンをつくることができると考えています。

今年移転した本社AG&FOOD CENTERの1階にもテストキッチン“BENTO LABO”があり、アグリホールディングスで扱う食材を活用したメニューやレシピの開発を開始しました。「食材+メニュー」をJAPAN POINT加盟店に届け、メニューでグローバル・バリューチェーンを1本につないでいきたいと考えています。

齊藤 実現のために強化すべきところはどこなのでしょうか。

前田 消費者や店舗にとってのJAPAN POINTの利便性向上と認知促進です。利用できる店舗を増やす、メニューを検索しやすくする、バウチャーを簡単に発行・入手できるなどサービスレベルを向上し、利用できる国も増やしていく。まずこれらを強化した上で、決済や物流などの機能もよいソリューションを取り入れながら、より便利なプラットフォームとしていきたいと考えています。

これらが強化されれば、今のネットワークがおのずと広がっていくと考えています。そのほか、海外でためたJAPAN POINTを日本で使ってもらうとか、インバウンドにもつなげられれば大きなビジネスチャンスになるのではないでしょうか。

齊藤 そういう面では当社はもっとお役に立てるかもしれませんね。国際ブランドプリペイド決済サービスや、スマートキャンペーンなど決済関連のサービスは得意とするところです。

前田 私たち自身は小さなスタートアップ企業ですが、日本ユニシスグループや日本ユニシスグループのお客さまとともにこのハブ&スポークの仕組みを育て、日本と世界をつなぐプラットフォームを構築していくことを楽しみにしています。

齊藤 アグリホールディングスの壮大なビジョンの実現をサポートしながら、一緒に大きなビジネスエコシステムをつくっていきたいですね。

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