「日本発Fintech」が目指すべき次なる金融サービスの世界とは

オープンAPI、仮想通貨、ネオバンクの先に広がるFintechの未来

「Fintech」というキーワードは、今や金融機関のみならず、新しいビジネス創出を目指すベンチャーやイノベーションを志向するあらゆる企業にとって、最大の関心事の1つとなっている。これまで海外の動きに追随する印象のあった日本のFintechだが、潮目は確実に変わりつつあり、次のステージに向けた取り組みがすでに始まっている。本稿では、Fintech協会代表理事/インフキュリオン・グループ代表取締役の丸山弘毅氏をゲストに迎え、日本ユニシス ファイナンシャル第三事業部 ビジネスクリエーション統括部長の三澤聰司と、Fintechの未来について語り合った。(本文中敬称略)

日本発Fintechサービスへビジネス創出の準備は整った

三澤 早速ですが、Fintechという言葉が日本で叫ばれ始めたのはいつごろだったでしょうか。Fintech協会が設立されたのが2015年9月ですので、個人的な感覚としてはその前年の2014年ごろからと認識しています。当時を振り返ってみると、Fintechにはディスラプト(破壊的イノベーション)的なイメージがあり、日本ユニシスのお客様も無関係ではいられないという、漠とした懸念がありました。

一般社団法人Fintech協会 代表理事 株式会社インフキュリオン・グループ 代表取締役 丸山弘毅氏

一般社団法人Fintech協会 代表理事
株式会社インフキュリオン・グループ
代表取締役 丸山弘毅氏

丸山 同様の不安を感じた方は少なくありません。当時の日本のFintechを取り巻く環境で一番の課題だったのは、それを支えるエコシステムが存在しなかったことです。ファンディングなどの支援体制が弱く、金融機関のシステムもガードが堅すぎてイノベーションを起こしづらく、さらには法規制の厚い壁もあり、端的に言うと気軽に実証実験も行えない状況でした。Fintechとはいかなるものなのかという理解が十分に進まない中で、どうしても日本企業の取り組みは後追いになってしまい、海外で台頭したサービスの"模倣"から脱却することができませんでした。

三澤 ただ、最近はずいぶん雰囲気が変わってきたように思います。国内でもFintechをポジティブに捉える企業が増えてきました。

丸山 背景として大きいのが銀行法の改正です。銀行システムのAPI公開が促され、様々な企業が金融機関と一緒になって新しいサービスをつくることが容易になりました。また、リスクマネーとしての出資も得やすくなるなど、Fintechを支援するエコシステムが徐々に拡大しています。これまでのような海外追随型ではなく、いよいよ日本発のビジネスモデルの創出に乗り出していく環境が整いつつあります。

ユーザーのメリットを目標に金融の仕組みを変えていく

三澤 日本の金融機関や一般企業がFintechの世界に本格的に踏み出していく上で、まだ何が足りず、どんなことが必要になるとお考えですか。

丸山 Fintech協会では、会員の皆様と各種テーマ別に様々な分科会(コンプラ分科会、API・セキュリティ分科会、決済分科会、電子レシート分科会、保険分科会、融資分科会など)を開催していますが、コンシューマーを含めたユーザーの声をもっと取り入れていく必要があります。

三澤 その点は、私どももよく理解しています。日本ユニシスは歴史的に金融機関とITシステムを通じた深い結び付きがありますが、その先にいるお客様の生の声をしっかり把握できているかというと、まだまだ十分ではありません。

丸山 Fintechスタートアップから見ると、銀行システムの機能をAPIで活用することで、もっと簡易に実験ができるような場があるとありがたいと考えています。

三澤 まさに"サンドボックス"の考え方ですね。

丸山 すでに多様なFintechのサービスが普及していますが、それらは従来の「金融とITの融合」という機能面に軸足を置いた業務改革の取り組みではなく、徹底したユーザー目線から生まれてきたものがほとんどです。その意味でも金融機関が抱えている課題のみをどれだけ掘り下げたとしても、なかなか本質的なイノベーションにはつながっていきません。金融機関としてやりたいことと、ユーザーが潜在的に求めていることが完全に合致しているわけではなく、金融機関を含めたFintech企業自身に、これまで見えていなかった課題を発見してもらう必要があります。

三澤 キャッシュレス決済サービスは、その最たるものではないでしょうか。国としても2020年までにキャッシュレス決済比率を40%まで高めるという目標を掲げていますが、現時点ではその半分以下の19%程度にとどまっています。現金を重んじる日本のユーザーの心には刺さっていないのが実情です。

丸山 まさにそこに課題があります。あまり需要がないのでキャッシュレス決済サービスは必要ないと捉えてしまうと、イノベーションに向けた発想そのものが縮小してしまいます。ご存じのとおり現金を処理するために企業は膨大なコストを費やしており、ならばそのコストがゼロになったらどうなるのか――。ユーザーが最も大きなメリットを得られる世界を実現することを目標に据え、そのゴールに近づくためにどうやって現在の仕組みを変えていくのかという方向で議論を深めていくことが重要です。

三澤 なるほど。そうした観点からキャッシュレスの仕組みを単なる決済のためだけの手段として捉えるのではなく、貯蓄や投資まで枠を広げて考えたとき、社会全体を変えていく一番大きな可能性を感じるのが仮想通貨です。

丸山 同感です。金融業界内にも様々な意見がありますが、個人的には貨幣が仮想通貨も含めたデジタル通貨に発展していくのは必然の流れと考えています。そもそも貨幣は経済圏の広がりに応じて普及していくものです。経済圏がサイバー空間に広がりつつある中、国や時間を超えて価値を交換・共有する手段としてデジタル通貨は不可欠な機能となります。

三澤 加えて申せば、今後さらなるデジタル化の進展が予想される中で"ネオバンク"と呼ばれる新たなプレーヤーも出現し、海外で動き出しています。こうしたネオバンクが日本にも登場したとき、金融機関とユーザーの関係も大きく変わっていくかもしれません。

丸山弘毅氏

丸山 ネオバンクの概念は非常に広範で、大きく分けると自らが銀行そのものになるネオバンクがあれば、銀行機能を持つことなく特化したFintechサービスを提供するネオバンクもあります。前者のサービスの中には「Banking as a Service」とも呼ばれ、銀行機能をAPIで切り出してオープンに提供していくという考え方に基づいたものも存在します。後者は銀行との役割分担を維持した上で、ユーザーのエージェントとなるサービスを提供します。こうしたネオバンクとどう付き合っていくべきなのか、金融機関はもちろんユーザーにとっても高度な戦略性が問われる時代になるかもしれません。

三澤 まさにネオバンクは、これまで金融業界の常識とされていた枠組みを超える、新たなカルチャーの出現を意味するのですね。日本ユニシスではこの時代の流れを「クローズからオープン、そしてカオスの世界への変化」と捉えています。カオスと言うと混乱や混沌といったネガティブなイメージを抱くかもしれませんが、ユーザーから見れば新たな価値をもたらしてくれる選択肢の広がりにほかなりません。これまで個別に存在し、分断していた金融機関とあらゆる業界の有機的な融合を促し、ビジネスエコシステムを通じて未来の経済を発展させる原動力となると考えています。

数値のやり取りを超えて意味や気持ちまで伝える

三澤 ここまで主にFintechの現在についてお話を進めてきましたが、"その先"に到来するステージとして、丸山さんとしてどのような世界を描いておられますか。

丸山 現在のFintechを技術面から捉えると、インターネットバンキングであれブロックチェーンのような分散台帳であれ、依然としてお金の授受をデジタル上で効率よく完結するための仕組みづくりを競っている段階にあります。そこでやり取りする情報は、金額という単なる数値だけでは足りません。例えば私たちの日常生活でも、対面でお金を受け渡しする際にお互いに「ありがとう」という言葉を掛け合っています。要するにお金と共にその意味合いまでデジタル化し、離れた相手とやり取りできるようにすることが、日本発のFintechサービスの次のステップになると考えています。

三澤聰司氏

三澤 確かに冠婚葬祭などの生活の大切なシーンを考えても、ただお金を渡せばよいわけではなく、いかに"気持ち"を伝えるかがより大切です。

丸山 そのお金がどんな意味を持つのか、どういうシチュエーションから生じたものなのかといった関連付けをシステム上で行うことが必要となります。それはデジタル通貨についても同様で、何らかのコミュニケーション性を持たせなくてはなりません。

三澤 ただ、情報入力のすべてを人間に依存したのでは煩雑さを増すため、オープンAPIを介したIoTやAIなどのテクノロジーの活用をはじめ、多様なシステムやサービスとの融合によるサポートが欠かせませんね。日本ユニシスでもシリコンバレーの日系コンサルティング企業が組成するファンド・オブ・ファンズ「Fintech Discovery Platform」への出資、コーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)である「キャナルベンチャーズ」の立ち上げ、新しいビジネススキームを創出する「Financial Foresight Lab」といった取り組みを進めており、Fintech協会とも密接に連携しながら、そうしたFintechのステップアップに貢献していきたいと思います。

丸山 それはとても心強いです。日本ユニシスは金融系ITのイノベーションに関して豊富な経験と知見を有しているだけに、日本発のFintech企業やユーザーに対して「こんな方法もある」「こんな面白いことができる」といった気づきを共に広げていくパートナーとして、大きな期待を寄せています。

三澤 こちらこそ今後ともよろしくお願いいたします。今日はお忙しい中、貴重なお話をしていただきありがとうございました。

株式会社インフキュリオン・グループ

株式会社インフキュリオン・グループ
http://infcurion-group.co.jp/
一般社団法人Fintech協会
https://fintechjapan.org/