鼎談:SDGsを軸に未来の事業を考える(前編)

SDGsからイノベーションを創出し、世の中をよりよく変える

2015年、「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」が国連で採択された。SDGsでは17の目標と169のターゲットが設定されている。いずれも世界的な課題であり、社会全体で取り組むべきテーマだ。最近は、SDGsへの共感と積極的な姿勢を表明する企業も増えつつある。こうした世界的な動きをどのように捉えるべきか。SDGs研究の第一人者である慶應義塾大学大学院教授 蟹江憲史氏と、CSRコンサルティング会社クレアン代表取締役で日本ユニシス取締役(社外取締役)の薗田綾子、日本ユニシス代表取締役社長の平岡昭良が語り合った。(以下、敬称略)

世界の193カ国が合意したSDGs
地球的な課題を俯瞰する枠組み

平岡 当社は2014年に、持続可能な成長を実現するための世界的な取り組みである国連グローバル・コンパクトに署名しました。社会課題の解決を目指しながら、それを企業としての持続的な成長やイノベーションにつなげていきたいと考えています。企業と社会との関係性については、近年、さまざまなキーワードが生まれています。世界的にESG(Environment、Social、Governance)、SDGs(Sustainable Development Goals)といった言葉がよく使われるようになりました。これらの概念をどのように整理すべきでしょうか。

慶應義塾大学大学院
政策・メディア研究科 教授
蟹江憲史氏

蟹江 ESGは投資家の間でよく使われます。基本的には、経営や企業のあり方を評価するための枠組みといえるでしょう。一方のSDGsは企業だけでなく、政府や自治体、NGOなどの多様なプレーヤーが世界的な視野で社会課題を考える際の目標です。SDGsには「貧困をなくそう」とか「飢餓をゼロに」といった17の目標と、それぞれの目標をより具体的に示した169のターゲットが示されています。非常に盛りだくさんで、ある意味では国連関係機関などでそれまでに合意されたことの寄せ集めといえるかもしれません。ただ、地球的な課題の全体像を俯瞰する上で、有効な目標ではないかと思います。

薗田 SDGsは2015年に国連で採択されました。ESGにも組み込まれ、私自身はSDGsによってかなり集約されてきたように思います。

蟹江 SDGsに193カ国が合意したという事実は非常に重い。国際的な他の枠組みと比べても、より重要な位置づけを与えられていると思います。

SDGsの17の目標

SDGsは世界の共通言語
トランスレーションコストも低い

日本ユニシス株式会社
代表取締役社長
平岡昭良

平岡 CSR(Corporate Social Responsibility)とCSV(Creating Shared Value)という概念もあります。簡単にいうと、本業との距離が遠いCSR、距離が近いCSVということだと思いますが、私たちはこれらのテーマも考えてきました。盲導犬を育てる取り組みに会社と社員が関わっていますが、これはCSR活動の一例です。また、CSVについて議論する中で、社会課題を解決するビジネスエコシステムの創出というコンセプトが生まれました。そして、最近はSDGsをテーマに議論する機会が増えています。

蟹江 CSRとCSV、SDGs、それぞれが重要だと思います。CSR活動は、本業との関係が薄いかもしれませんが、活動自体に意味があり、社会にアピールする力も強い。そして、CSVやSDGsを通じて未来の事業を考えるという視点はとても大事です。SDGsが示しているのは、いわば未来の骨格です。さまざまな組織はそこからバックキャストして、今やるべきことを考えましょうということ。バックキャストの発想でイノベーションや新ビジネスを生み出せば、社会貢献が仕事になります。

日本ユニシス株式会社
取締役(社外取締役)
薗田綾子

薗田 グローバルという観点で、SDGsを重視する経営者も多くおられます。蟹江先生がおっしゃるように、SDGsは国際的に広く認められた枠組みです。したがって、世界中の拠点で働く社員にとっての共通言語になりうる。例えば、国内だけでビジネスをしているなら、「三方よし」といえばみんなが理解してくれるかもしれません。しかし、海外の社員やステークホルダーに対して、ニュアンスを含めて同じ内容を伝えるのは容易ではないでしょう。SDGsの目標やターゲットで説明すれば、社内意識の浸透として明確に伝えることができると思います。

蟹江 トランスレーションコストが下がる。これも、SDGsの効果の1つですね。

コミットメントは必達目標ではなく、
チャレンジのための目標

平岡 SDGsを軸にビジネスの変革を目指すに当たって、自社の取り組みを17の目標と169のターゲットにいかにひも付けるかが重要になります。その難しさについては後で議論したいと思いますが、まずお聞きしたいのが「コミットメント」の意味です。SDGsのターゲットを明示した上でコミットメントを宣言する企業が増えつつありますが、私たちの感覚ではコミットメントには「必ず達成するもの」というニュアンスがあります。そうすると結果として、「できそうなことだけ」を目標として掲げることになりがちです。これでは、SDGsの考え方に沿っているとはいえないでしょう。悩ましいところですが、この点についてはどのような理解をすべきでしょうか。

蟹江 SDGsが示しているのは意欲目標だと、私は考えています。「2030年までに廃棄物ゼロを目指す」というように、「~を目指す」というのがコミットメントの意味するところでしょう。結果として達成できないかもしれないけれど、「こういうことを目指しています」と企業としての方向性と目標を明らかにする。それを社員やステークホルダーと共有して、達成に向けて努力することが重要。実際、SDGsへの取り組みを表明している企業の中には、「~を目指す」とか「~に向けてチャレンジする」といった表現を使っている企業もあります。

平岡 これまでは、「世の中に対して表明する以上は、必ず達成すべき」という考え方が強かったと思います。当社だけではなく、おそらく多くの日本企業が同じようなマインドを持っているのではないでしょうか。

蟹江 そうかもしれません。その意味では、SDGsに即した2030年の目標と、今期や来期の目標は切り離して考えたほうがよいでしょう。株主に対しては必達目標を示す必要もあるかと思いますが、だからといって「~を目指す」という話ができないことにはなりません。ただ、足元の必達目標と、2030年の目標をどのようなステップでつなぐかについては、一工夫が必要だと思います。

薗田 SDGsでは積み上げ方式ではなく、ゴールからバックキャストするという発想が求められます。例えて言えば、「どんな山に登りたいですか」ということ。漠然と「高い山に登りたい」ではなく、「この山に登りたい」ということを明確に示すことが大事です。そのためには、「3年後にはこの地点、5年後にはこの地点に到達する」という目標設定とKPIが必要です。

平岡 どんな山に登るかを社内外に明示して、組織全体のエネルギーを1つの方向に向けていく。そのためのコミットメントということでしょうか。それは必ずしも必達目標を意味するのではなく、チャレンジへの意思表明であると。この点については、関係者の共通理解を醸成しておく必要があるかもしれませんね。

薗田 そう思います。チャレンジしなければ、頂上に到達することもありません。

>> 後編に続く

Profile

蟹江 憲史(かにえ・のりちか)
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 教授/国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)シニアリサーチフェロー
1969年生まれ。2000年、慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科後期博士課程修了。博士(政策・メディア)。北九州市立大学講師、助教授、東京工業大学大学院 社会理工学研究科准教授などを経て、2015年より現職。日本政府持続可能な開発目標(SDGs)推進円卓会議委員、一般財団法人建築環境・省エネルギー機構「自治体SDGs指標検討委員会」委員、一般財団法人日本建築センター「建築関連産業とSDGs委員会」委員、内閣府 地方創生推進室「自治体SDGs推進評価・調査検討会」委員などを務めている。
平岡 昭良(ひらおか・あきよし)
日本ユニシス株式会社 代表取締役社長
1980年、日本ユニバック(現・日本ユニシス)入社。2002年に執行役員に就任、2005年から3年間CIO(Chief Information Officer)を務めた後、事業部門責任者として最前線の営業・SEの指揮を執る。2011年に代表取締役専務執行役員に就任。2012年よりCMO(Chief Marketing Officer)としてマーケティング機能の強化を図る。2016年4月、代表取締役社長CEO(Chief Executive Officer)/CHO(Chief Health Officer)に就任。
薗田 綾子(そのだ・あやこ)
日本ユニシス株式会社 取締役(社外取締役)
兵庫県西宮市生まれ。甲南大学文学部社会学科卒業。1988年、女性を中心にしたマーケティング会社クレアンを設立。1995年、日本初のインターネットウィークリーマガジン「ベンチャーマガジン」を立ち上げ、編集長となる。そのころから、本格的に環境・CSRビジネスをスタート。現在は、大阪ガス、セブン&アイ・ホールディングス、三菱電機、明治ホールディングス、ユニ・チャーム、横浜ゴムなど延べ約700社のCSRコンサルティングやCSR報告書の企画制作を支援。特定非営利活動法人サステナビリティ日本フォーラム(Sus-FJ)事務局長、特定非営利活動法人日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)理事、環境省チャレンジ25キャンペーン関連事業推進委員会委員などを務める。