激動の時代において求められるコーポレートガバナンスの在り方とは(後編)

コーポレートガバナンスは「旅路」であり「目的地」ではない

以前の日本企業においては内部昇進の取締役が大半で、取締役会による監督機能という観点では課題を抱えていた。しかし、近年は多くの企業が社外取締役を増やすなど、取締役会の実効性を高めるための取り組みを強化している。日本ユニシスもまた、実効性強化のためにさまざまな工夫を重ねている。コーポレートガバナンスの専門家である高山与志子氏は「取締役会における多様性、高い視座からの議論」の重要性を指摘する。
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取締役会の実効性を高めるため
その構成と議論の内容が問われる

福島 高山さんから、「どのような企業になりたいのか」を考えることが重要との指摘がありました。日本ユニシスは、どのような企業になりたいと思っているのでしょうか。

日本ユニシス株式会社
代表取締役社長
平岡昭良

平岡 2018年5月、当社は2020年に向けた中期経営計画を発表しました。計画を策定するに当たって、社内で会社としての存在意義を徹底的に議論しました。その結果として、新たに定めた存在意義は「顧客・パートナーと共に社会を豊かにする価値を提供し、社会課題を解決する企業」。その上で、私たちは業種・業態の垣根を越え、さまざまな企業をつなぐビジネスエコシステム創出の中核を担っていきたいと思っています。これが、当社の目指す企業像です。

福島 中期経営計画について、取締役会では、どのような議論があったのですか。

平岡 日本ユニシスの取締役会は9人で構成され、うち社外取締役は3人。社外取締役のバックグラウンドは多様で、税務やSDGs、経営などに精通した専門家にお願いしています。それぞれの専門性を生かして、取締役会では当社の存在意義の再定義を踏まえた、多角的な議論が行われました。

福島 「こうありたい」という姿を明確に示すことは非常に重要ですね。その方向に進むことを促すのも取締役会の役割とのことですが、そこで、取締役会の実効性が問われることになりますね。

高山 その通りです。実効性を考える上ではいくつかの要素がありますが、特に重要なのが取締役会の構成と議論の内容です。取締役会の議論の内容は、構成に大きく影響されます。日本ユニシスはこれから、いろいろな人たちを巻き込んで新しい価値をつくっていくとのことですので、環境変化の激しい時代に、いわば未知の世界に足を踏み入れることになります。将来の見通しは不透明で予測は困難です。こうした環境において、コーポレートガバナンスの観点で重要なのが取締役会の多様性です。もう1つ、細部にこだわるのではなく、高い視座から長期的な観点で議論することも重要でしょう。

取締役会の多様性と
高い視座からの議論

ジャーナリスト
福島敦子氏

福島 多様性と高い視座が重要との指摘がありました。こうした観点で、日本ユニシスの取締役会での具体的な議論をご紹介いただけますでしょうか。

平岡 一例として、ベンチャーキャピタルへの投資案件についてお話ししましょう。当社はシリコンバレーの日系ベンチャーキャピタルに投資しています。その投資の是非を議論する中で、社外取締役の1人からは「米系のファンドへ投資することで、よりシリコンバレーのインサイダーになることを目指すべきではないか」という意見が示されました。そこでさまざまな方向からの議論があり、「他の日本企業もそのベンチャーキャピタルを通じて、現地の情報を収集している。ならば、そこを通じて新技術に関心を持つ日本企業にアクセスすることができる」という視点を得ることができました。その後、実際にベンチャーキャピタルを通じて、日本企業とのコラボレーションが実現しています。社外取締役の発言により、新しい発想や視点が生まれたと思います。

高山 社外取締役が有効に機能し、取締役会の実効性を高めているということだと思います。ただ、日本企業全体を見ると、従来は実効性の高い取締役会はあまり多くはなかったというのが実情だと思います。大半の取締役が社内出身者なので、「自分で自分を監督する」という一種の自家撞着の状況になっていたからです。コーポレートガバナンスの観点では、社外取締役の存在、その人数や割合が大きな意味を持ちます。海外での経験則上、3分の1以上の人数が必要といわれますが、日本ユニシスはこの水準に達しています。また、ジェンダーの多様性という観点でも、複数の女性取締役がいます。このような意味で、日本ユニシスは、取締役会の多様性において先進的なコーポレートガバナンス体制を実現している企業の1つということができるでしょう。

Corporate governance is a journey,
not a destination

福島 日本ユニシスは2018年、取締役会の実効性評価について、高山さんの会社に支援を依頼しました。第三者の視点を入れて、より客観的に評価しようということですね。

平岡 以前から自己評価を行っており、できるだけ客観的で公正な評価を心がけてきました。ただ、環境変化がますます激しさを増す中で、適切なリスクテイクを行う環境づくりを一層進める必要があるとも感じていました。そこで、その環境づくりを行うために、現状の取締役会にさらに必要なことは何かを見極めるために、評価について第三者の知見をお借りしようと思ったのです。

ボードルーム・レビュー・ジャパン株式会社
代表取締役
高山与志子氏

高山 まず明確にしておきたいのは、実効性評価の主体はあくまでも取締役会であるということです。当社はそれを支援する立場で、ファシリテーターとして取締役会による評価をサポートしました。その過程ではまず質問票による調査を行い、次に1人当たり1時間から1時間半程度のインタビューを実施するなど、入念な検証・分析を行いました。そのような第三者が入るプロセスを通じて、評価における客観性や透明性を一層向上させることができたのではないかと思います。

福島 日本では、第三者を入れた形で取締役会の実効性評価を行っている企業は増えているのでしょうか。

高山 2015年のコード施行以来、増えていることは確かですが、まだまだ少数です。統計がないので何ともいえませんが、私の見たところ取締役会評価を実施している企業のうち、第三者評価を行っているのは1割を切っているのではないでしょうか。また、第三者に依頼していたとしても、ごく簡単なアンケートで済ませているケースもあります。日本ユニシスのように時間をかけて丁寧な実効性評価を行っている日本企業は、さらに少ないでしょう。

平岡 今回、高山さんには、当社の取締役会メンバー全員の意見を質問票や個別インタビューで聴取して分析・取りまとめいただき、その内容を基に取締役会で審議したのですが、その結果、取締役会メンバーの知識、経験、専門性のバランスが取れており、常にオープンで活発な議論が行われていること、規模や運営状況を含め、総じて高く評価できることを確認しました。一方で、検討・改善すべきと思われた点もいくつかありましたので、取締役会の実効性を一層高め、議論の内容をさらに深いものにしていくために、まだまだやるべきことはあると思っています。今回の経験を通じて一番うれしかったのは、高山さんから「すべての取締役が『変わらなければいけない』という意識を共有している」と言われたことですね。

福島 最後に、今後の展望を。コーポレートガバナンスを、どのように維持・強化していこうとお考えですか。

平岡 ビジネス環境は常に変化しており、リスクテイクを判断する際の難易度はさらに高まるでしょう。持続的な成長のためには、健全な経営を追求し続ける営みが欠かせないと思います。コーポレートガバナンスへの取り組みに終わりはありません。

高山 まったく同感です。コーポレートガバナンスの専門家の間では、“Corporate governance is a journey, not a destination”という言葉がよく使われます。ガバナンスには完成形のようなものはなく、長い旅路のようなものです。それは、経営も同じでしょう。

福島 経営とコーポレートガバナンスについて、本質的なお話を伺うことができたと思います。本日はどうもありがとうございました。

Profile

高山 与志子(たかやま・よしこ)
ボードルーム・レビュー・ジャパン株式会社 代表取締役
1987年、メリルリンチ証券会社ニューヨーク本社投資銀行部門に入社。ニューヨーク、ロンドン、東京にて、資金調達、M&Aなどに関するアドバイスを行う。トムソン・ファイナンシャル・インベスター・リレーションズを経て、2001年から、ジェイ・ユーラス・アイアール株式会社にて、IR活動およびコーポレートガバナンスに関するコンサルティングを行う。2015年よりボードルーム・レビュー・ジャパン株式会社の代表取締役に就任、数多くの企業の取締役会評価の支援を実施。
平岡 昭良(ひらおか・あきよし)
日本ユニシス株式会社 代表取締役社長
1980年、日本ユニバック(現・日本ユニシス)入社。2002年に執行役員に就任、2005年から3年間CIO(Chief Information Officer)を務めた後、事業部門責任者として最前線の営業・SEの指揮を執る。2011年に代表取締役専務執行役員に就任。2012年よりCMO(Chief Marketing Officer)としてマーケティング機能の強化を図る。2016年4月、代表取締役社長CEO(Chief Executive Officer)/CHO(Chief Health Officer)に就任。
福島 敦子(ふくしま・あつこ)
ジャーナリスト
中部日本放送を経て、1988年独立。NHK、TBSなどで報道番組を担当。テレビ東京の経済番組や、週刊誌「サンデー毎日」でのトップ対談をはじめ、日本経済新聞、経済誌など、これまでに700人を超える経営者を取材。上場企業の社外取締役や経営アドバイザーも務める。島根大学経営協議会委員。文部科学省、農林水産省の有識者会議の委員など、公職も務める。著書に『愛が企業を繁栄させる』『それでもあきらめない経営』など。

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