鼎談:イノベーションの条件――「不確実性の時代」を生き抜く(3)

第3回 求められる「資質・能力」とは

「日本発のイノベーションが少なくなった」という話をよく耳にする。しかし、イノベーションを起こしている日本企業が存在することも事実だ。イノベーションはどのような企業において、どのような条件の下で促進されるのだろうか。今回は、『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』の著者で、早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)准教授の入山章栄氏をゲストに迎え、日本ユニシス社長の平岡昭良がジャーナリストの福島敦子氏とともに、日本企業のイノベーションを促すための戦略、行動などについて語り合った。

「チャラ男」と「根回しオヤジ」

早稲田大学ビジネススクール 准教授 入山章栄氏

早稲田大学大学院経営管理研究科
(ビジネススクール) 准教授
入山章栄氏

福島 入山先生の著書『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』はベストセラーになりました。興味深い内容が満載ですが、その中の「チャラ男」と「根回しオヤジ」の最強コンビという表現が面白く、とても印象に残っています。

入山 イノベーションを創出する上で、多くの日本企業が悩んでいるポイントです。まず、外部とのネットワークを持つチャラ男が圧倒的に不足しています。そういうタイプの人たちは、社内では「名刺コレクター」などと言われて疎まれがち。しかし、意外と面白いアイデアを持っていたりするものです。ただ、そんなアイデアを提出しても、ほとんどの場合は稟議プロセスの中でつぶされてしまいます。おそらく、意欲のある若手社員の多くが経験していることでしょう。

平岡 私塾の中でもよく見かけた光景です。私塾で生まれたアイデアを、卒業後もやり続けようとすると、管理職を順番に口説いて認めさせなければなりません。これに疲れ果てて、途中で挫折してしまう社員もいました。

入山 その壁をいかに突破するか。カギを握るのが根回しオヤジです。ある程度の規模の企業になると、中間層の中に組織に溶け込めない人がいます。特に保守的な企業の場合、先進的な感覚を持っていると浮いた存在になりがち。しかし、その感覚は周囲からは一目置かれていて、かなりの社内人脈を持っていたりします。それが根回しオヤジです。チャラ男と根回しオヤジが組めば、意思決定の難所を乗り越えることもできる。その可能性は決して小さくないと思います。

妄想力とストーリーテリング能力

日本ユニシス株式会社 代表取締役社長 平岡昭良

日本ユニシス株式会社 代表取締役社長
平岡昭良

平岡 意思決定プロセスの壁を突破するために、社内に向けて"Try Fast"、"Fail Fast"、"Learn Quickly"というメッセージを出しました。メッセージに込めた思いは次第に浸透しつつあると感じていますが、とはいえ若手のアイデアをレビューしようとする上司もいたりします。アイデアを育てるためには、こうしたレビューをなくす必要があるのではないか。そう考えて、私は「中間層はマネジメントではなく、エンジェルになれ」と言っています。例えば、新規事業を提案する部下がいたら、その実現を阻んでいる障害を取り除いてチャレンジをサポートする。エンジェルには、そんな役割も求められます。

入山 イノベーションの条件にはいろいろな要素がありますが、最後はマインドセットの問題。私はそう考えています。社員のマインドを奮い立たせるためには、トップが繰り返しメッセージを発する必要がある。まさに、平岡社長が実践していることですね。

福島 マインドに関連しますが、入山先生はセンスメイキングの重要性も強調しておられますね。

入山 センスメイキングというのは、簡単に言うと「組織メンバーやステークホルダーが事象の意味について納得し、それを集約するプロセス」です。環境変化が激しく、将来を予測できない時代には、正確性よりも納得性が大事です。「10年後、20年後、世の中はこういう方向に進むだろう。だから、自分たちはこの強みを生かして、ここで勝負しよう」とビジョンを語り、ストーリーテリングによって周囲を納得させる。ここで言うビジョンは妄想と言い換えてもいいでしょう。未来を見据えた妄想力、その妄想に周囲を巻き込むストーリーテリング能力を兼ね備えたリーダーが求められています。

「コンポーネントな知」と「アーキテクチュラルな知」

平岡 知の探索と深化について伺いました。これとは別に、入山先生は組織の知を「コンポーネントな知」と「アーキテクチュラルな知」に分ける議論も紹介しておられます。

入山 自動車の例で説明しましょう。自動車のアーキテクチャ、つまり内燃機関で駆動し4つのタイヤを回して走るといった全体の構造は長年変わっていません。実は自動車が生まれた時代には、電池で動かすという方式にも可能性がありましたが、いったん内燃機関が主流になるとその優位性はますます強化されました。こうしたアーキテクチャが確立すると、各メーカーはコンポーネントで差異化を図るようになり、その知識が重要になってきます。ここで注意すべきは、企業の組織もコンポーネントに依存するということ。例えば、エンジン部門とクラッチ部門は密接に連携するようになる一方、これらと窓ガラスを担当する部門の関係は疎遠になる、といった感じです。製品やサービスのデザインが、組織構造を規定するということです。

ジャーナリスト 福島敦子

ジャーナリスト
福島敦子氏

福島 知の深化は進んでも、知の探索が行われなくなりますね。

入山 その通りです。問題は、アーキテクチャが突然変わったときに、こうした組織構造では対応できなくなること。これは製品力の問題ではなく、組織の問題です。

福島 そういう時代には、組織を一度壊してつくり直す必要があるということですね。先ほど日本ユニシスの組織改編の話題がありましたが、入山先生の解説で理解が深まりました。

入山 ただ、言うは易く行うは難しです。既存事業の収益を維持しながら、組織をつくり替えなければなりません。企業にとって、非常に大きなチャレンジです。

平岡 当社はこれまでコンポーネントな知を磨いてきましたが、クラウドやデジタル革命という潮流を受けて、今、アーキテクチャの変化に直面しています。分野ごとにさまざまなアーキテクチャがあり得ると思いますが、例えばスマートシティーをつくるとすれば、妄想をたくましくして異分野の知を探索する必要があるでしょう。同時に、安全・安心な都市インフラを構築するために、知の深化も欠かせません。両利きの経営を意識して、今後ともイノベーションへのチャレンジを続けていきたいと考えています。

福島 お二人の問題意識と知見が響き合うような時間でした。本日は、どうもありがとうございました。

鼎談:イノベーションの条件 記事一覧

>> 第3回 求められる「資質・能力」とは
>> 第2回 今こそ「知の旅」へ出よう
>> 第1回 「失敗が財産」というマインドセット

Profile

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入山 章栄(いりやま・あきえ)
早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール) 准教授
慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年から米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネス・スクール助教授。2013年から現職。専門は経営戦略論および国際経営論。
平岡 昭良(ひらおか・あきよし)
日本ユニシス株式会社 代表取締役社長
1980年、日本ユニバック(現・日本ユニシス)入社。2002年に執行役員に就任、2005年から3年間CIO(Chief Information Officer)を務めた後、事業部門責任者として最前線の営業・SEの指揮を執る。2011年に代表取締役専務執行役員に就任。2012年よりCMO(Chief Marketing Officer)としてマーケティング機能の強化を図る。2016年4月、代表取締役社長CEO(Chief Executive Officer)/CHO(Chief Health Officer)に就任。
福島 敦子(ふくしま・あつこ)
ジャーナリスト
松江市出身。津田塾大学英文科卒。中部日本放送を経て、1988年独立。NHK、TBSなどで報道番組を担当。テレビ東京の経済番組や、週刊誌「サンデー毎日」でのトップ対談をはじめ、日本経済新聞、経済誌など、これまでに700人を超える経営者を取材。上場企業の社外取締役や経営アドバイザーも務める。島根大学経営協議会委員。著書に『愛が企業を繁栄させる』『それでもあきらめない経営』など。