鼎談:破壊的イノベーションを生み出すために。

日本企業の強みを活かした"皆が主役になれる"ビジネスエコシステムと失敗を恐れぬ文化の醸成がイノベーション創出の可能性を拓く。

近年、米国ハーバードビジネススクールでは、日本企業の事例が教材に多く採用されており、日本の企業やリーダーに学ぶ気運が高まっています。その一方で日本企業は、ダイナミックなイノベーションを起こせず、閉塞感を打破できないという課題も抱えています。
そこで今回は、米国をはじめ海外のイノベーション事例に数多く触れてきた佐藤智恵氏をゲストに迎え、日本ユニシス社長の平岡昭良がジャーナリストの福島敦子氏とともに、日本企業が認識すべき強みと弱み、イノベーション創出に向けた課題や今後の取り組みについて語り合いました。

Profile

佐藤 智恵

佐藤 智恵(さとう・ちえ)
作家/コンサルタント

1970年兵庫県生まれ。1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループ、外資系テレビ局などを経て、2012年、作家・コンサルタントとして独立。「外資系の流儀」(新潮新書)、「世界のエリートの『失敗力』」(PHPビジネス新書)、「ハーバードでいちばん人気の国・日本」(PHP新書)など著書多数。

著作紹介

『ハーバードでいちばん人気の国・日本』
佐藤 智恵 著(PHP新書)

平岡 昭良

平岡 昭良(ひらおか・あきよし)
日本ユニシス株式会社 代表取締役社長

1980年、日本ユニバック(現・日本ユニシス)入社。2002年に執行役員に就任、2005年から3年間CIO(Chief Information Officer)を務めた後、事業部門責任者として最前線の営業・SEの指揮を執る。2011年に代表取締役専務執行役員に就任。2012年よりCMO(Chief Marketing Officer)としてマーケティング機能の強化を図る。2016年4月、代表取締役社長CEO(Chief Executive Officer)/CHO(Chief Health Officer)に就任。

福島 敦子

福島 敦子(ふくしま・あつこ)
ジャーナリスト

松江市出身。津田塾大学英文科卒。中部日本放送を経て、1988年独立。NHK、TBSなどで報道番組を担当。テレビ東京の経済番組や、週刊誌「サンデー毎日」でのトップ対談をはじめ、日本経済新聞、経済誌など、これまでに700人を超える経営者を取材。上場企業の社外取締役や経営アドバイザーも務める。島根大学経営協議会委員。著書に「愛が企業を繁栄させる」「それでもあきらめない経営」など。

世界で賞賛される日本企業とリーダーシップ

福島 佐藤さんのご著書「ハーバードでいちばん人気の国・日本」で紹介されているように、世界中のエリートが集まる米国ハーバードビジネススクールでは、日本の企業やリーダーを教材とする授業が増えていると伺いました。なぜ今、日本企業への賞賛の声が高まっているのでしょうか。

佐藤 米国はエンロン事件やリーマンショックなどを経て金銭至上主義が見直され、尊敬される企業やリーダーが必要であることを痛感しました。さらに現在は、先の大統領選挙や英国のEU離脱など、先行きの不透明感がますます増しています。

こうした背景のもと、ビジネススクールで教える内容も変わりました。リーダーシップ関連の科目が増え、企業が長きにわたって存続していくために何が必要かを学ぼうという機運が高まったのです。

福島 日本には長い歴史をもつ企業が多いことが注目される要因ですか。

佐藤 はい。日本は世界で最初に企業(578年創業の建設会社・株式会社金剛組)が誕生した国であり、長年の歴史のなかで積み重ねてきた英知が、企業やリーダー、そして社員一人ひとりに受け継がれています。

福島 どのような点がとくに評価されているのでしょうか。

佐藤 日本の企業やリーダーが、ビジネスを通じて利益を追い求めるだけでなく、世の中や人々に役立つことを目指している点です。さらに、それを社員一丸となって高いモチベーションでやり遂げる遂行力も評価されています。

福島 ハーバードの授業で取り上げられている事例を1つ教えていただけますか。

佐藤 株式会社JR東日本テクノハートTESSEIの事例を紹介しましょう。新幹線の車内清掃業務を担うJR東日本の子会社です。

平岡 「新幹線お掃除劇場」や「セブンミニッツミラクル」というキーワードで紹介され、世界中から賞賛された企業ですね。

佐藤 新幹線の清掃はいわゆる3K(きつい・汚い・危険)といわれており、同社もかつては社員のモチベーションが低く、クレームも多いといった課題を抱えていました。しかし、矢部輝夫氏という一人のリーダーが大改革を行い、現場のモチベーションを劇的に高め、奇跡的な再生を果たしたのです。

矢部氏は社員に向かって「あなたたちはお掃除のおばちゃん、おじちゃんじゃない。新幹線の運行を支える技術者です」と、事あるごとに語りかけました。その結果、社員は自分の仕事に誇りを抱き、高い自主性のもとで現場が改善され、エクセレントカンパニーに生まれ変わりました。

平岡 感動的なお話ですよね。

佐藤 日本企業ならではの現象だと思います。例えば米国人の学生に「社員のモチベーションを高めるには何をしたらいいと思う?」と尋ねても、回答として出てくるのは報酬を上げるといった方策です。これだと一時的にはモチベーションが高まるでしょうが、長続きはしません。同社は年間売上40億円ほどですが、今やJR東日本グループ全体、さらには他地域のJR各社にも良い影響を与えています。

福島 1つの企業の意識改革が大きな波及効果をもたらしているのですね。

日本企業の良さを象徴するビジネスエコシステム

福島 世界で日本企業の良さが見直されているにもかかわらず、日本の社会には閉塞感が漂っている印象があります。これは昨今、従来のビジネスモデルを壊すような破壊的イノベーションが世界中で続々と誕生しているなかで、日本からはあまり出てこない現状とつながっているように思います。

イノベーションを大別すると、「破壊的イノベーション」「持続的イノベーション」「効率化のためのイノベーション」の3つがあり、日本企業は持続的および効率化のためのイノベーションは得意とする一方、破壊的イノベーションは苦手だと指摘されています。佐藤さんは日本企業と破壊的イノベーションについて、どのようなお考えをおもちですか。

佐藤 破壊的イノベーションには、投資など思い切った決断が不可欠です。しかし、日本の企業にはそうした決断ができるリーダーが昔に比べて減りました。日本には優良企業が多いのですが、ある意味で優良すぎるのかもしれません。良くも悪くも保守的になってしまうパターンが多く見受けられます。

平岡 リーダーには、先が見えないなかで信念をもって決断する――"ディシジョン"でなく"ディターミネーション"が求められると思いますし、私自身もそこを大切にしたいと考えています。

福島 平岡社長は、日本企業が破壊的イノベーションを苦手としている理由はどこにあると思われますか。

平岡 既存のお客さまが求めるものだけに目を向けがちな点でしょうか。当社もベンチャー企業とタッグを組んで、革新的な技術を活かした新サービスをお客さまに提案していますが、残念ながら「いらない」と言われることも多いのが現実です。かつてはそこで終わってしまうケースもありました。

しかし、今は不要でも、将来的には社会課題を解決する技術やサービスに化ける可能性があるわけです。そんなパーツを各社がもち寄り、大きなビジョンのもとで既成概念にとらわれないサービスを生み出す。こういったビジネスエコシステムが構築できれば、破壊的イノベーションも実現できるはずです。

佐藤 日本的な良さの象徴ともいえるようなビジネスエコシステムですね。ハーバードやスタンフォードの先生方は「日本企業は国内外を問わず、顧客や社員、地域住民といったステークホルダーを大事にして、コミュニティをつくるのが非常にうまい。人を大切にする文化はイノベーションを生み出すうえで大きな強みになると思います」と口を揃えて仰います。

平岡 海外企業もビジネスエコシステムを構築していますが、足りないリソースはM&Aで手に入れるなど、主役はあくまでも自社です。その点、当社が取り組んでいるビジネスエコシステムは、ステークホルダーがビジョンを共有し、得意分野を活かせるという点で、皆が主役になり得るのです。

そのためには"すりあわせ"が不可欠ですが、日本企業は昔からすりあわせ技術を得意としています。日本型のビジネスエコシステムから破壊的イノベーションが生まれたら嬉しいですね。

挑戦した結果の失敗を奨励しそこから学べる文化を醸成

福島 世界のさまざまな企業をご存じの佐藤さんにお伺いしたいのですが、破壊的イノベーションが生まれる土壌や文化といった観点で、海外と日本の企業に違いはあるのでしょうか。

佐藤 日本でも欧米でも同じなのは、企業は放置しておくと保守的になるということです。ですからビジネススクールでは、イノベーションを起こすためのマインドを一生懸命教えています。

とくに、日本と大きく違うのは失敗に対するスタンスですね。海外企業は失敗への耐性を身に付けることを大変重視しています。

佐藤 智恵

福島 ご著書「世界のエリートの『失敗力』」でも失敗の大切さを強調されていますよね。

佐藤 米国では、どんな失敗をして何を学んだのかという「失敗経験」が評価されます。スターバックス社のH・シュルツ氏などグローバル企業のCEOも、失敗があったからこそ今の自分があると話しています。成長のためには失敗が不可欠だという考え方なのです。

福島 日本は減点主義のせいか、失敗を恐れて挑戦を避ける傾向が強いと思いますが、それではイノベーションは起こりませんよね。平岡社長はその点、「成功のKPIは失敗の数だ」と明言されています。失敗が認められる組織づくりは、経営者として覚悟がいるのではないですか。

平岡 そこはまさに"ディターミネーション"です。新規事業など未知の領域では、失敗を前提として挑戦を繰り返すなかで成功者が生まれ、リーダーやメンターが育ちます。そのため、まずは私自身がいくつも挑戦し、いくつも失敗してきました。

佐藤 失敗した上司だからこそ部下の気持ちが理解できると。

平岡 そのとおりです。失敗を経験していない上司は「不確実な部分を確実にしろ」と指示しますが、確実なことは誰でもできます。誰も分からない不確実性があるからこそ、破壊的イノベーションが起こせるのです。

また、そうした経験を積んでいけば、不確実な要素を切り分けてリスクを検証できるようになります。例えば、今まで誰も手をつけなかった原因は何か、自分はそのなかのどれをブレイクスルーしようとしているのかなど、自問自答ができるわけです。

福島 失敗から学び、身に付けた力は、大きな財産になりますね。

平岡 昭良

平岡 ただし、注意しなければならないのは、失敗には2種類あるという点です。1つ目は見落としや不注意による失敗、いわゆるケアレスミスです。これを繰り返しても得るものはありませんから、カイゼン活動や標準化などを通じて撲滅していく必要があります。

2つ目は未知の領域に挑戦した結果の失敗です。こちらからは多くのことを学べるので奨励すべきです。両者は必ず分けて考えなければなりません。

佐藤 まさに平岡社長のご指摘どおり、ハーバードのエイミー・エドモンドソン教授も、「業務の種類と失敗の許容量」について説いています。ルーチン業務ではできる限り失敗は減らし、イノベーション業務では必要な失敗は重ねていくべきであると。

もっとも、日本のみならず米国の企業であっても、イノベーション業務なのにミスを咎め、ルーチン業務なのに失敗を推奨するといった真逆の対応をしているケースが散見されます。リーダーや管理職は、どの業務であればどこまで失敗してよいかを決めておくことが肝要です。

福島 失敗を財産とする文化が根づくには時間がかかるでしょうから、それまではほかの人の失敗事例から知見を学ぶことも大事だと思います。

佐藤 日本ユニシスには失敗を共有するような仕組みがあるのですか。

平岡 これまでは個々の失敗から得た知見は暗黙知となっていたのですが、それらを集めて形式知として蓄積し、共有財産にしていこうという取り組みを進めています。しかし、今のところまだカタチにはなっていません。

やはりデータベース化だけでなく、失敗を受け入れるマインド醸成を加速させていくことが重要ですから、より失敗をポジティブに捉えられるような工夫が必要だと感じています。例えば、失敗を「失敗」でなく「中断」と呼ぶとか。

佐藤 面白いですね。今はひとまず一時中断しているだけ、という意識に変えるわけですね。

経営スピードの向上には承認プロセスの変革が必要

福島 今の企業は、激しく変わる事業環境にいかに早く対応し、イノベーションを創出できるかが問われており、経営スピードの向上が重要なテーマとなっています。

佐藤 経営のスピード化は国を越えた共通の課題だといえます。経営スピードを速めた海外企業の代表が、インドのHCLテクノロジーズ社です。年間売上が7,100億円ほどあるグローバルIT企業ですが、市場や顧客ニーズの変化にいち早く応えるため、組織をピラミッド型から逆ピラミッド型に変えました。逆ピラミッドとは、現場の社員の裁量を拡大し、どんどん決断させ、経営陣はそのサポートに徹するという組織形態です。そういった抜本的な改革を断行することで意思決定を徹底的に迅速化しました。米国でもピラミッド型を見直してフラット型にするIT企業が増えてきています。

一方、日本企業は、きっちりとしたピラミッド型組織がほとんどです。ピラミッド型組織には確実な遂行力という強みもありますが、やはりスピードには欠けますよね。

福島 スピードアップを狙ってフラットな組織にしたものの、結局あまり変わらなかったという例も耳にします。

福島 敦子

平岡 その原因は、組織をフラットにしても承認プロセスがピラミッド型のままだったからでしょうね。承認に時間がかかっていたら他社に追い抜かれてしまいます。

当社では、私のところまであがってこない案件が、プレスリリースでどんどん出ていますが、とても良い傾向だと感じます。スピードは重要な経営資源の1つですから。

少子高齢化をチャンスと捉えイノベーションを推進

福島 日本は、世界でもずば抜けて早く少子高齢化が進むなど「社会課題先進国」といえます。それらの解決を契機として、日本から破壊的イノベーションが生まれる可能性もあるような気がします。

佐藤 あるハーバードの先生は「日本の少子高齢化はチャンス」と仰っています。労働力が確実に減り高齢者が増え続ける社会が目前に迫るなか、何かしらイノベーションを起こさないと国が立ち行かなくなります。日本がどう解決に取り組むのか、米国のみならず世界が注目し、研究しています。

福島 大きな社会課題の解決のためには、1つの企業だけでなく皆で力を出し合う必要があります。その点で、先ほども話題に出た日本の良さを活かしたビジネスエコシステムが期待を集めそうです。

平岡 ビジネスエコシステムで社会課題解決を推進できるかどうかは、ICTによるシステムだけでなく、それを超えた仕組みづくりが重要だと考えています。

例えば、自炊が困難な高齢者向けサービスとして、食事を自宅に届けるのではなく小学校などに移動販売車を呼び、高齢者が足を運んで食事できるような仕組みをつくるのです。

そうすれば、高齢者は外出する機会が増えて健康や活力が向上するでしょうし、子どもたちと触れ合える場ができることで、高齢者と子どもが融合した新しいコミュニティも生まれます。

佐藤 地域活性化にもつながりますよね。

平岡 コミュニティ形成をはじめ人間力をベースに、デリバリーの効率化や需給予測などでICTをうまく使いながら、社会課題の解決に取り組むことが必要だと思います。

福島 なるほど。利便性向上だけでなく、人々の幸せにいかに貢献できるかという視点も、イノベーションには大切ですね。

佐藤 それらを生み出すのもやはり人ですから、若い人材の優れたアイデアを活かせる組織が増えれば、イノベーションは自然と生まれてくるように思います。

そのためにもリーダーが人材育成に関する意識を変えるべきです。現状は「後継者を育てなきゃ!」と考えるリーダーが多いのですが、自分が育てるのではなく育つ仕組みをつくるのがリーダーの役目です。

仕組みさえつくってしまえば、日本人は優秀ですから良い人材が育っていくはずです。企業が今後成長できるかは、そこに尽きるのではないでしょうか。

平岡 当社も社員が活躍できる場や、支援する組織づくりを一層進めていきます。日本の社会全体が幸せになれるよう、当社が先駆けて変わっていきたいと思います。

福島 近い将来、日本発の破壊的イノベーションが数多く起きることを期待しています。本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

集合写真

3つの提言

  1. 共有ビジョンのもと得意技術をもち寄る日本型のビジネスエコシステムを構築せよ
  2. ルーチン業務における失敗は防ぎ撲滅し新たな挑戦における失敗は推奨せよ
  3. ICTを活かしつつ人々の幸せに貢献する仕組みづくりで社会課題を解決すべし