鼎談:ワイガヤからイノベーションを。

企業を越えて、業種を越えて、規模を越えて。「社会課題先進国」ならではのビジネスエコシステムが日本を強くする。

デジタル技術の進展とともに顧客の価値観やニーズが変化するなか、企業には「ビジネスエコシステム」を構築してイノベーションを生み出し、社会や顧客に"これまでにない価値"を提供していくことが求められています。 今回はジャーナリストの福島敦子氏をファシリテーターに迎え、さまざまな企業や人材が業種や規模の枠を越えてビジネスイノベーションに挑む開発拠点「DBIC」(デジタルビジネス・イノベーションセンター)を設立した特定非営利活動法人CeFIL(セフィル)理事長の横塚裕志氏と、「ビジネスエコシステム」の実現に積極的に取り組む日本ユニシス社長の平岡昭良が意見を交わしました。

Profile

横塚 裕志(よこつか・ひろし)

横塚 裕志(よこつか・ひろし)
特定非営利活動法人CeFIL理事長 兼 DBIC代表

1973年、東京海上火災保険(現・東京海上日動火災保険)入社。情報システム部長、常務取締役IT企画部長を経て、2009年に東京海上日動システムズ社長に就任。2013年、東京海上日動システムズ顧問に就任。特定非営利活動法人CeFIL理事長のほか一般社団法人情報サービス産業協会(JISA)会長も務める。

平岡 昭良

平岡 昭良(ひらおか・あきよし)
日本ユニシス株式会社 代表取締役社長

1980年、日本ユニバック(現・日本ユニシス)入社。2002年に執行役員に就任、2005年から3年間CIO(Chief Information Officer)を務めた後、事業部門責任者として最前線の営業・SEの指揮を執る。2011年に代表取締役専務執行役員に就任。2012年よりCMO(Chief Marketing Officer)としてマーケティング機能の強化を図る。2016年4月、代表取締役社長CEO(Chief Executive Officer)/CHO(Chief Health Officer)に就任。

福島 敦子

福島 敦子(ふくしま・あつこ)
ジャーナリスト

松江市出身。津田塾大学英文科卒。中部日本放送を経て、1988年独立。NHK、TBSなどで報道番組を担当。テレビ東京の経済番組や、週刊誌「サンデー毎日」でのトップ対談をはじめ、日本経済新聞、経済誌など、これまでに700人を超える経営者を取材。上場企業の社外取締役や経営アドバイザーも務める。島根大学経営協議会委員。著書に「愛が企業を繁栄させる」「それでもあきらめない経営」など。

時代に即した価値を創出するにはビジネスエコシステム構築が必須

福島 複数の企業や団体が連携し、新しいビジネスモデルの創出に取り組む「ビジネスエコシステム」への注目が高まっています。その背景には社会や企業を取り巻く環境の変化があると思われますが、お二人はどのように捉えていらっしゃいますか。

横塚 今の時代、ほとんどのモノが身の回りにあふれ、手に入るようになりました。そうしたなかで消費者が価値を感じるのは、「今まで欲しかったけどなかったもの」――すなわち暮らしや社会を変えてくれるようなサービスやソリューションです。しかし、それらを1社で実現することは極めて困難です。例えば「洗濯をもっとリーズナブルかつ手軽にしたい!」というニーズがあったとして、洗濯機だけでは解決できません。洗剤や乾かし方、いつ干すべきかといった情報提供など、すべてセットで提供して初めて満たせるわけです。

福島 仮に1社で実現しようとしたら、莫大な時間とコストがかかるでしょうね。

横塚 はい。これからの時代に価値をどう生み出していくかを考えると、得意分野をもった企業同士が連携した方が、高品質なサービスを迅速かつ適正なコストで提供できる。ビジネスエコシステムの構築に取り組む企業が増えるのは、必然であり必須だといえるでしょう。

平岡 私の認識もほとんど同じですが、付け加えれば、デジタルテクノロジーの進化が加速し、ビジネスモデルも多様化するなかで、既存の業界の壁や秩序を壊すような破壊的なイノベーションが起きていることがあげられます。その代表例が配車サービス「Uber」です。

福島 スマートフォンのアプリで簡単にタクシーを呼ぶことができて、登録済みのクレジットカードで自動決済できる仕組みですよね。海外では、一般ドライバーが自家用車をタクシーとして営業することもできるとか。

平岡 日本ではまだ浸透していませんが、海外では爆発的に広がっています。利用者にとっては、その場で支払いが発生しないので言葉が通じない海外でも安心してタクシーに乗れますし、ドライバーは自分のライフスタイルに合わせて働くことができます。

横塚 Uberによるインパクトもさることながら、あと5年くらいで自動運転技術がかなり進展するはずですから、自動車業界は激変するでしょうね。

福島 1つのイノベーションによって、今までの業界やビジネスの構造がまったく違うものに変貌していく可能性がある。それがあたりまえに起きる時代になりつつあるということでしょうか。

平岡 さらには、新しいビジネスモデルが登場すると法規制も緩和・適応し、より一層業界の壁がなくなっていく。こうした状況下で企業が生き残っていくための手段が、ビジネスエコシステムなのです。
そのためには今までのビジネスに固執せず、改めて自社の強みや得意分野は何か、コアは何なのかを見つめ直さなければなりません。

横塚 業界の枠がないというのは、ある意味「何をやってもいい」世界ですから、軸をしっかりもっていないと方向性を見失ってしまいます。

平岡 そのうえで、ビジネスエコシステムを自社でつくって仲間を募るのか、あるいはプレーヤーとして参加するのか――いずれかの道を選ぶべき時代に入ってきていると感じます。

失敗を恐れない環境・風土をつくりイノベーション人材を育成

福島 日本ユニシスグループは、中期経営計画における重点テーマとしてビジネスエコシステムを掲げていますが、それには人材育成が不可欠だと思います。平岡さんは以前からイノベーション人材の発掘や育成に力を注いでこられたそうですね。

平岡 いきなりビジネスエコシステムをつくる人を育てようと思っても難しいので、まずは、会社の中で"妄想レベル"からチャレンジできる環境をつくろうと考えました。最初は「こんなものがあったら面白いな」「こんなことできないかな」という妄想でいいのです。

福島 チャレンジできる環境とは、どのようなものでしょうか。

平岡 私が常務だった頃に私塾を開きました。会社の研修ではなくプライベートな塾として、若手や中堅を30人ほど集め、新規事業を考える場を設けたのです。面白いと思ったら社内の承認手続きはすべて私がやるという条件で。
それを機に「いろいろなことをやってもいいんだ」という雰囲気が出てきましたし、私自身も新規事業を始めてたくさん失敗しました。

福島 上の人が失敗してくれたら、あとの社員は続きやすくなりますよね。

平岡 最近では開き直って、「成功のKPIは失敗の数である」と社員に言っています。失敗なくして成功はありえませんし、失敗してもノウハウや知識などは手に残ります。それを次に活かし、つないでいくことができますから。

福島 これまでの人材育成や環境づくりに対する手応えはありますか。

平岡 昭良

平岡 はい。最近は新しいサービスやビジネスが毎週のようにリリースされており、嬉しい限りです。

福島 ベンチャー企業と組んで風力発電も始められたとか。

平岡 台風や強風でも発電ができる、ちょっと変わった風力発電です。
面白い話があって、このプロジェクトを担当した女性社員が周りから「エネルギー事業をやるの?」と聞かれ、「いいえ、金融サービスも視野に入れています」と答えたそうです。IoTで気象データや発電量を収集・管理すれば、将来の発電量を予測できるため、その期待収益に対して証券化・信託化するといったサービスに広げていける。いわゆるFinTechですよね。
このように、異なる分野から新しいサービスを生み出すという発想も少しずつ芽生えてきました。

横塚 とてもユニークですし、頼もしいですね。

平岡 本当に良い傾向だと感じています。というのも、従来のシステムインテグレータは、要求されたシステムを期日どおりに納めるため、まずリスクを抽出し、排除することが不可欠でした。
しかし、新しいビジネスはリスクだらけですから、気にしていたら始められません。リリースが続々出てきているということは、とにかくやってみようとチャレンジする文化が浸透してきた証です。

福島 ただし、チャレンジして失敗したらどうなるのか、その時の評価が気になる社員もいると思います。

平岡 失敗を恐れずにチャレンジする人を高く評価するために、人事評価制度において「どれだけ新たなチャレンジをしたか」という項目を設けました。管理職に対しては、どれだけ部下のチャレンジを促したかを評価項目に定めています。

横塚 人事評価に組み入れるというのは素晴らしいですね。

福島 今後、日本ユニシスではどのような取り組みを進めていく予定ですか。

平岡 社内で"ワイガヤ"しやすい環境をつくっていきます。
例えるなら、1つひとつのサービスや技術、ノウハウなどが"星"だとして、それを"星座"に見立て、つなげていくことがビジネスエコシステムです。私は、それを生み出す近道がワイガヤだと考えています。昔の人も「あれって何かに見えない?」という会話をしながら星座が生まれていったと思うんです。それをビジネスの世界で実現していけるよう、異業種の組織を同じユニットにまとめるなどワイガヤしやすい環境を整えています。

企業や業種の垣根を越えたワイガヤでイノベーションを促進

福島 横塚さんが理事長を務める特定非営利活動法人CeFILが2016年5月に設立した「DBIC」も、ビジネスエコシステムを通じたイノベーション創出を目的にされたものですよね。

横塚 はい。日本ユニシスさんのようにビジネスエコシステム構築に取り組む企業をつなぎ、もっと多くの日本企業が一緒になって世界に太刀打ちできるイノベーションを生み出していく必要がある。そのためにどうしたらいいかと考えた時、企業を越えて、業種を越えて、規模を越えて、1つの場所に集まってワイワイ議論をする場が必要だと考えました。その場所を提供するというのがDBICの基本的なコンセプトです。

福島 あらゆる垣根を取り払ったワイガヤを促進するということですね。

横塚 ただし、日本企業、とくに大企業の方々はなかなか自社のことを話したがらない。それだとワイガヤにはなりません。違う会社同士でもオープンに議論できるよう、心のハードルを下げる状況をつくり出すことが重要だと思っています。
そのための施設として、9月に「オープンイノベーション・ガーデン」を東京・虎ノ門に開設しました。美味しいコーヒーやワインを楽しみながら、フランクに意見や情報を交換できる場にしていきたいと考えています。

平岡 日本ユニシスもDBICの会員であり、私自身、運営委員の一人として参加していますが、横塚さんを含め異業種の方々と、それこそ妄想レベルの会話をしています。

横塚 裕志

横塚 先日は、介護に携わる方々をサポートしたいという流れから、新しいオムツの話が出てきました。ご承知のとおり、介護現場は夜間も2時間おきに起きて、おむつを交換したり見回りをしたりするなど非常にハードです。

福島 これから高齢者の割合はさらに増えますから深刻な社会課題です。

横塚 例えばオムツにセンサーが付いていて、交換が必要になったらアラートが出るようにすれば定期的な見回りを減らせるかもしれない。さらにセンサーで心臓の動きや血圧を把握できれば、より多くのことが分かるようになり、介護現場のタフな仕事を軽減するのに役立つはずです。

平岡 次に、そういうセンサーをどうしたらつくれるかという妄想が膨らんでいくわけです。オムツに付けるならセンサーを安く抑えないと無理だけど、何百万個を量産すれば費用を抑えられるはずだとか。それならオムツメーカーと幾つかの会社が組めば可能じゃないか、といった具合に。

福島 そうした話も、いろいろな会社の人が集まるからこそできるわけですね。

横塚 センサー会社もあれば、通信会社もあれば、ロボットをつくる会社もあって、多様な人たちが集まるほど、新しいことが生まれる可能性が高まります。そうしたなかでプロジェクトが具体化してくれば、DBICがファシリテーションをしたり、ベンチャー企業との組み合わせを一緒に探したりといった支援を行います。

福島 ほかには、どのような取り組みを行っているのですか。

横塚 スイスIMDおよびシンガポール経営大学(SMU)といった世界有数のビジネススクールと提携し、世界の最新技術やビジネスモデルの情報を提供するほか、経営層向けセミナーなども開催しています。

福島 世界の最新動向を伝えておられるとのことですが、日本企業の経営トップの方々は、昨今のデジタルテクノロジーのインパクトをどのように捉えていますか。

横塚 まだ意識が希薄なように感じます。冒頭にも話があったように、すでにデジタルテクノロジーによるイノベーションは産業や業界を塗り替える力をもっていますから、本当は経営トップが最重視すべきテーマです。
ものづくりに代表されるように、日本企業は実力があるのですから、発想さえ切り替えればあっという間に世界に勝てるイノベーションが起こせるはずだと信じています。

福島 マインドセットを促すためにも、これからDBICの役割がますます重要になりますね。

win-winを超えた関係性を築き社会課題の解決をめざす

福島 今後の目標や展望、あるいは日本企業に期待することなどを聞かせてください。

横塚 DBICを立ち上げたばかりですから、まずは大勢の方々に集まっていただき、さまざまなプロジェクトを立ち上げて、ノウハウを貯めて新しいビジネスを生み出していくために支援していきます。
その結果として、平岡さんが仰るような「どんどんチャレンジしよう」という気質が日本の大企業に芽生えてほしい。最終的には、DBICがなくても日本企業同士が自由にワイガヤし、ビジネスエコシステムを構築できるようになるのがゴールですね。そうなれば、日本は強くなると思います。

福島 平岡さんはいかがですか。

福島 敦子

平岡 日本は「社会課題先進国」だと思います。少子高齢化、環境問題、エネルギー問題など、いろいろありますよね。それらをビジネスエコシステムで解決していこうと考えていたところに、タイミング良くDBICを設立していただいた。当社も引き続き取り組んでいきますが、DBICも活用させていただきながら「社会課題先進国」を「社会課題解決先進国」に変えていきたいと考えています。

横塚 これからのビジネスエコシステムを考えると、経営が「正義・大義・ビジョン」をもつことが重要だと思います。それはすなわち、企業の存在意義は何か、社会にどう貢献していくのかというところに帰結するでしょうね。

平岡 私も同じです。ビジネスエコシステムは、win-winの意識だけでは成り立ちません。我慢する時期は我慢しなければいけないですし、参加するなら今までの価値観を捨てる覚悟もいる。それでも取り組むのは「正義・大義・ビジョン」が共有できているからです。win-winを超えた共有がビジネスエコシステムのプレーヤー同士の関係を築いていく。だから、妄想も話せるわけです。

横塚 そうして多くの企業が同じビジョンのもとにつながっていけば、もっと便利で楽しい生活ができるイノベーションが誕生し、地球もより良く回っていくでしょうね。そんな世界を楽しみにしています。

福島 日本発のワクワクするようなイノベーションを期待しています。

3つの提言

1. 業界の壁が崩れゆく時代に向き合い自社の強みやコアを見つめ直すべし 2. 失敗を恐れずチャレンジを推奨する環境づくりがイノベーションを生む 3. 「正義・大義・ビジョン」の共有がビジネスエコシステム成功の鍵

集合写真

―「DBIC」(デジタルビジネス・イノベーションセンター)とは

2016年5月、特定非営利活動法人CeFILが、デジタルテクノロジーを駆使したイノベーションを起こす開発拠点として設立したのが「DBIC」です。製造業、サービス業、金融・生損保、IT企業など27社の国内大手企業が参加しています。 日本で初めて、企業が業種や規模の枠を越えて自由に集い、議論できる「オープンイノベーションのためのプラットフォーム」を提供し、参加企業同士、参加企業とベンチャー、産学連携によるビジネスエコシステム構築をめざしています。また、世界有数のビジネススクールであるスイスのIMDおよびシンガポール経営大学(SMU)と連携し、経営層や戦略スタッフの人材育成に向けた教育プログラムを提供します。
9月中旬には、参加企業がいつでも集まり相互交流を図るための施設として、「オープンイノベーション・ガーデン」を開設しました。 特定非営利活動法人CeFIL(セフィル:Center For Innovation Leaders)についてCeFILは、日本経済団体連合会の高度情報通信人材育成部実行機能を引き継ぎ、2009年7月に経団連の有志企業より設立された特定非営利活動法人で、経団連、大学、企業と連携し、日本の成長戦略を推進するため活動に取り組んでいます。

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