農業生産物の販売機会ロスを防げ!「ファーマーズ・マーケット おうみんち」の挑戦

直売所状況をリアルタイムに可視化する「つながるファーマーズ」全国初の正式導入

滋賀県守山市を本拠とする「おうみ冨士農業協同組合」の直売所である「ファーマーズ・マーケットおうみんち(守山本店)」では、売上を拡大するために日本ユニシスの「つながるファーマーズ」を全国の直売所に先駆けて導入した。「おうみんち」という名称は、協同組合のマスコット「おうみん(メロンをモチーフにした鳥)」のお家という意味。そこには「利用者にとって自分のお家のように利用してほしい」との願いが込められている。生産者が売り場状況をリアルタイムで画像確認できるスマートフォンアプリケーションであるつながるファーマーズ導入の背景にはどのような課題があり、導入後にはどういった変化が生まれているのだろうか。今回は、現場の生産者の声を交えつつ、紹介していきたい。

欠品による機会損失は
直売所の共通課題

日本における農林水産業の6次産業化(※)のエンジンとして近年注目を集めてきた農産物の直売所だが、ここ数年は陰りが見え始めている。おうみ冨士農業協同組合 食育園芸部 部長の祖父江秀雄氏は「生産者の高齢化による出荷量の減少や気候変動による生産物種別のバランス変化、そして近隣の直売所との競争激化によって、直売所を取り巻く経営環境は厳しくなっています」と語る。

※ 6次産業化とは、生産物の価値を上げるため、農産物などの生産だけでなく、食品加工や流通・販売にも取り組み、活性化を図ろうとするもの

おうみ冨士農業協同組合
食育園芸部 部長
祖父江秀雄氏

その中でも、直売所にとっての大きな悩みの種は、品切れによる販売機会の損失である。主力商品である新鮮な野菜の多くは、朝、直売所に集まってくるのが一般的だ。商品の売れ行きによっては、最もニーズが大きいお昼ごろから夕方までに欠品を起こすことも多いという。「それが販売機会の損失を招き、消費者にとっての『直売所では欲しいものが買えない』というイメージにもつながっているのではないか」と祖父江氏は分析する。

おうみ冨士農業協同組合の直売所である「ファーマーズ・マーケットおうみんち(守山本店)」(以下、守山本店)でも同様の状況が発生し、課題となっていた。守山本店は2008年に小規模直売所をスクラップ&ビルドして誕生した直売所で、滋賀県でも最大級の規模を誇る。約550の農家と契約し、200~300品目の商品を販売する。年商は10億8000万円と大きい。

直売所の一番人気は特産品の「モリヤマメロン」だ。最盛期となる6月~8月上旬頃は特設コーナーを作り、メロン目当てに多くの来客がある。

ファーマーズ・マーケットおうみんち(守山本店)のモリヤマメロン加工品コーナー(編注:取材は2020年2月。この時はメロン最盛期ではなかったため加工品が陳列されている)。写真右上は、協同組合のマスコット「おうみん(メロンをモチーフにした鳥)」
「ファーマーズ・マーケットおうみんち(守山本店)」の店舗内(写真左)と外観(写真右上)。守山本店では、新鮮な野菜や花・果物の販売はもちろん各地のイベントなどに駆けつけるキッチンカーも有している(写真右下)
おうみ冨士農業協同組合
食育園芸部部長代理 兼
「ファーマーズ・マーケット おうみんち」店長
伊庭本浩孝氏

規模が大きいだけに、販売機会を損失した際の影響も大きくなる。同店ではこれまでも品切れを防ぐ努力を続けてきた。POSレジの売上データを30分ごとのWeb配信と1日3回のメール配信で生産者に公開し、生産者は任意のタイミングで見たい時に売上状況を確認することができた。

しかし、約6年前にPOSシステムをリプレースして、決められた時間のみしかメール配信が無いシステムに切り替えたことで、生産者から不満の声が上がった。おうみ冨士農業協同組合 食育園芸部部長代理兼店長の伊庭本(いばもと)浩孝氏は、「POSレジの更改時期に合わせ、JAの広域合併を見越して、滋賀県域ファーマーズマーケットシステムを他に先駆けて導入しました。ただメールのみの対応になって1日8回配信するシステムに切り替えたことが裏目に出て、生産者の不安をかき立ててしまう結果になっていたのです」と語る。

生産者
「今井農園」代表
今井伊知郎 氏

守山本店に野菜を出荷している「今井農園」代表の今井伊知郎氏も不安を感じた一人だった。「4つの直売所に出荷していますが、守山本店は来客も多く、売れ行きも日によって差があります。このため売れ方は読みづらい。9時に開店して最初のメールが10時に来て、50個出荷したうちの10個しか売れていないので安心していたら、昼頃に野菜がなくなってしまうこともあります。次のメール配信でそれが分かっても、対応が後手に回りチャンスロスにつながってしまっていました」(今井氏)

今井氏の農場は、車で10分ほどの距離にあり、早めに欠品が予測できればすぐに追加することができる。しかし、メール配信だけではそのアドバンテージを生かせなかったのである。

「デジタルの力で生産者意欲を高め、
利用者の利便性向上にも貢献したい」

こうした中で、伊庭本氏が注目したのが、日本ユニシスのスマートフォンアプリ「つながるファーマーズ」だった。店舗の陳列棚の様子をIoTカメラで撮影し、店舗に設置した画像処理用の小型PCでプライバシー保護のため、AI技術による動体除去技術を活用して人物を除去する加工を行い、クラウド上にアップロード。そこから、スマートフォンへ画像配信するというサービスである。

直売所などの店舗内に設置したネットワークカメラから、コンピューターと録画装置にリアルタイムに動画を送信し、録画装置では防犯用の映像として利用できる。またコンピューターに送られた動画は、人物を除去した画像に加工されてクラウドにアップロードされる。これにより個人情報が保護された状態で配信することができ、利用者はいつでもスマホを用いて店舗内の画像を確認できる

「一昨年の秋ごろでした。愛知県の直売所がカメラで店内を撮影して売れ行き状況を生産者に公開している新聞記事を見て、そういう方法もあるんだと思っていました。その折に、日本ユニシスから電話をいただきました」と伊庭本氏は当時を振り返る。

(写真左から)日本ユニシス株式会社サービスイノベーション事業部 ファイナンシャル営業部 第二営業所 担当所長 藤野雅善、同第二営業所 第二グループ セールスマネージャー 山本敏継

長野県の農協で行った実証実験の結果を受けて商品化された「つながるファーマーズ」だったが、その時点で正式導入の実績はなかった。日本ユニシスの藤野雅善は「日本ユニシスとして農業系セールスは初めての経験でした。しかし、長野県での経験から『デジタルの力で売り場情報が即時に情報共有されれば、販売機会が増大し、顧客層の多様化・増加にもつながる』と感じていました。そこで、まずは大きな直売所へのアプローチを優先しようと活動していました」と語る。この時、守山本店に提案を行ったのは、日本ユニシスの山本敏継である。「興味があるので一度見てみたいというお話をいただきました。その際に、『和歌山県で開催される全国農林水産物直売サミットに出展します』とお伝えしたところ、ちょうど見に行く予定とのことで、その機会に具体的な概要を一通りお話しました」と山本は経緯を説明する。

日本ユニシスにとってこのサミットに出展していたことが功を奏した。祖父江氏は「初めは偽のセールス電話かと疑っていました(笑)。そんな大手が直接営業活動をしているとは思っていなかったので。しかし、サミットにも出展しているし、本気で取り組んでいることが分かり、お二人のお話からも熱意が伝わりました」と話す。また、伊庭本氏は「チャンスロスをなくせる可能性があり、しかも全国初の取り組みです。来店されるお客さまの顔は分からないように加工されているため、プライバシー侵害の心配もありません。直売所の売上が下降トレンドにある中で、生産者のためにもなり、今後の売上を拡大するチャンスにもつながると考えました」と語る。

その後、導入に向けて徐々に準備が進んでいったが、直売所売上が下がり気味で、人件費増大、施設の老朽化などの対応が急務である中、効果が見えないものへの投資判断は容易ではなかった。「初期投資がかかる点や、他に導入事例がない点、さらに導入に際しての具体的なイメージがつかみにくい点がネックになりました。また、スマホを持っていない人もいるので平等に活用できないのではないか、との指摘もありました」と祖父江氏は説明し、こう当時を振り返る。

「不安を抱えながら農林中金に資金相談に行くと、その担当者はつながるファーマーズを知っていたんです。『これは、他の直売所も日本初の取り組みを狙っているのでは!?」と思いました」と祖父江氏は振り返る。その後、積極的に導入に向けて動くことを決意し、生産者と経営陣を説得する戦略を一歩ずつ詰めていった。

伊庭本氏は「見えないもののイメージ化として、メロン販売での活用を推進材料としました。」と語る。守山市の特産品「モリヤマメロン」は守山本店の看板商品であり、売上の1割強を占める。予約会には徹夜で並ぶ人が出るほどだ。実際に店頭で品切れになることも多く、消費者にとっては直売所では「メロンを買えない」という印象も強いという。「しかし、実際にはピークを過ぎると売れ残ることもあるんです。店頭に並んでいることをこちらからも情報発信できれば、お客さまに買っていただくチャンスを提供することになります。そのためにこのサービスが使えるはずとアピールしました」(伊庭本氏)

システム導入後、
売上が1.5倍になった生産者も登場

導入に向けた決裁が下り、2019年9月にサービス利用が開始された。導入に先立ってメールで利用者を募ったところ、守山本店の近隣生産者約40人から良い反応があり、説明会には30人ほどが集まった。直売所内には、カメラを5台導入したが、1台はメロンの販売用と位置付け、残りの4台は店舗に配置した。生産者の今井氏は「カメラが入ったことでリアルタイムの情報量が増えました。朝置いた場所は覚えているので、画像から売れ行きを的確に判断できます。仕入れに来る料理人が大量に買ってくれることもあるので、常にチェックすることが重要な日課になりました」と話す。

「これまでは30分のリスクが大きかったです」と語るのは、今井氏と同じく守山本店近隣で農産物の生産を行う九重智子氏だ。九重氏が冬の主力として扱う白菜は朝の料理番組などで取り上げられたりすると、売れ行きが大きく変わるという(編注:取材は2020年2月)。「今はカメラが入ったので、商品がゼロになることはなくなりました。1日に3~4回は追加することもあります。季節ごとの違いはありますが、多いときには売上は以前の1.5倍になりました」と九重氏。確かに、白菜の売れ方の傾向が分かってくれば、他の野菜を店頭に準備するタイミングも早くなり、全体として効率アップが期待できる。九重氏は「生産者名で指名買いする人もいますから、個々によって売れ行きが違って当然ですが、リアルタイムに現場の状況が分かれば、生産者の対応も迅速になります。そのうえで、お客さまの笑顔につながるおいしくてきれいな野菜をいかに生産し、届けるかが、出荷側のプライドです。これからも、そこにこだわっていきたい」と意気込みを語る。

「第二、第三の今井さん、九重さんを増やすことが今の目標です。それができれば直売所全体の売上を1.2倍程度にすることも難しくないと思っています」と伊庭本氏は手応えを感じている。祖父江氏も「生産者の期待に応えられたことは良かったと思っています。もっと活用していただき、商機を逃さないようにしてもらいたい」とサービスの活用を期待する。

現在はまだ生産者側がスマホから直売所の状況を確認できるにとどまっている。今後は、消費者向けのアプリも準備していくという。しかし、課題もある。高齢の生産者をはじめとして、スマホを扱えない人をどのようにフォローアップするのかという点だ。祖父江氏は「さまざまな使い方を試しながら、試行錯誤して対策を考えていきたい」と話す。同時に、守山本店の主力商品であるメロンの時期に向けて諸課題をいかにクリアしていくかが問われている――。全国初の取り組みがどのような成果を生むのか、今後も注目してきたい。

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