旅行業界の“流通”が変わる――異業種連携による観光ビジネスエコシステム時代が来る

社会課題を解決する「旅行イノベーションセミナー2020」レポート

中期経営計画で自社の存在意義を「社会課題解決への貢献」と定義した日本ユニシス。そのビジネス分野の1つとして掲げているのが、観光×ICTだ。訪日外国人(インバウンド)数が過去最高を記録する中、地域経済の活性化に向け、地方への送客と適切な情報提供をどう進めるかがポイントとなっている。2020年1月に日本ユニシスが、IATA、アソビューなど業界の有識者と共に観光業の未来について語った「旅行イノベーションセミナー2020」には、航空会社や旅行会社を中心に、幅広い業種・業態のビジネスパーソンが関心を寄せ、当日の来場者は予想を大幅に上回る人数となった。今回のそのセミナーの内容をレポートする。

観光にICTを活用 地域経済活性に貢献

近年、日本の観光業が大きく変化している。数の変化でいうと、2020年1月に日本政府観光局(JNTO)が発表した資料によれば、2019年の訪日外国人数は前年比2.2%増の3188万2000人で過去最高を記録した。

構造的な変化もある。電車やバス、タクシーのほか、ライドシェアなど、さまざまな種類の交通サービスを、需要に応じて利用できる1つの移動サービスに統合するMaaS(Mobility as a Service:サービスとしての移動)の登場で、「ICT×交通」という新たな付加価値が生まれている。航空業界も、航空券の流通を抜本から変える新流通規格「NDC(New Distribution Capability)」が本格的に動き出している。

日本ユニシス株式会社
公共第二事業部 事業部長
小石良明

「この観光分野でICTの知見を活用し、社会課題を解決する」と表明したのが日本ユニシス 公共第二事業部 事業部長の小石良明だ。2020年1月16日、東京・品川で開催された「旅行イノベーションセミナー2020」で冒頭の挨拶に登壇した小石は、この意図を次のように説明する。

今日の日本社会は、人口減少や広がる格差、国内需要の低迷、都市部への人口集中など、さまざまな課題を抱えて動いている。日本ユニシスが最先端のICTを活用し、企業課題の解決に貢献してきた歴史を踏まえ発表した中期経営計画(Foresight in sight 2020)では、自社の存在意義を「顧客・パートナーと共に社会を豊かにする価値を提供し、社会課題を解決する企業」と定義した。「観光客を地方に呼び込み、その地域の経済活性化を促進することで、需要と消費を喚起するという狙いは、観光立国推進基本法にも示されています。そこで私たちはこの観光・旅行分野で、専門性を持つパートナーと協力し、お客さま企業と地域社会をつないでビジネスエコシステムを形成し、社会課題を解決するソリューションを示していきたいと考えています」

実際に進めている事例として、小石は2つのソリューションを紹介した。1つは、訪日観光に向けた情報プラットフォーム「FESTRAVEL」。これはインバウンドと日本の地域活性化を支援するために旅行先の買い物情報やアクティビティを分かりやすく紹介し、予約や購入を促進するサービスで、現在台湾の旅行代理店FunNow社、そして北海道の札幌・小樽と共に実証実験を進めている(ニュースリリース)。

もう1つは、2019年11月に滋賀県大津市と共同で推進したMaaSの事例だ。「この実験は、移動自体をサービスとして捉えたもので、観光客・地域住民向けにそれぞれ周遊パスと観光案内・店舗情報を統合したオリジナルのスマホアプリを提供しました。アプリのダウンロード数は当初予定の約3倍のダウンロードがあり、うち5割の方が周遊パスを購入し、一定の周遊活性化の成果は出たと思います」

そのほかにも、日本ユニシスは2019年にIATA(International Air Transport Association) Strategic Partnerに加盟。航空業界団体であるIATA(国際航空運送協会)が推進している業界改革にIT企業として参画し、旅行業界イノベーションに貢献していく構えだ。最後に小石は「旅行客の方に対して、旅前、旅中、旅後を含めたあらゆる旅行体験をICTで支援するとともに、送客など地域経済の活性化へ貢献し、「観光立国」、サステナブルな社会作りの一助となっていきたいと思います」と語り、講演を締めくくった。

日本ユニシスの旅行分野における検討分野

航空業界が目指す流通イノベーションとは

IATA
日本代表
藤原勇二氏

IATAは、世界約290社の航空会社が加盟する業界団体として標準規格策定を推進するなど、航空業界のさまざまな活動をサポートしている。とりわけ近年注力してきたのが航空券流通コストの低減に向けた取り組みだ。小石に続いて登場したIATA 日本代表の藤原勇二氏は、「2000年代に入り、航空業界は、紙の航空券からeチケットへ、そしてモバイルへと大きく変化してきました」と、その歴史を振り返る。

従来の航空券はGDS(Global Distribution System)という仕組みを通じて流通されていた。GDSは世界中にある航空会社と旅行会社をつなぐ事業者/システムで、旅行会社はGDSを通じて各社の在庫情報をチェックし、航空券を販売する。一方、航空会社ではもともと「予約」と「発券」は全く別の業務として分断されており、予約システムは1970年代に開発された古いシステムが今でも現役で使われている。レガシーシステムなので当然文字情報がベースであり、行き先や航行スケジュール、席種などの基本情報しかやりとりできない。

「かつては航空会社が独自のサービスやホスピタリティを展開しようとしても、そうした情報は流通に乗らなかったので、独自性を発揮できませんでした」(藤原氏)

そうした中、グローバルな航空券流通の革新に向けてIATAが2012年から取り組んでいるのが冒頭で述べたNDCである。NDCとは、簡単に言えば航空券流通でやりとりする情報をXMLで規格化する取り組みで、「新しい流通の可能性」などの意味があるという。

「NDCではGDSとは異なる流通規格で、航空券に含まれるサービスを明示し、さらに画像などのリッチコンテンツも提示できます。これにより、航空会社独自の提案で、顧客に選んでもらえる流通が実現できると期待されています」。なお、NDCはGDSと異なり、航空会社が直接航空券の情報を配信するので、個々の旅行客や代理店に適したパーソナライズされた提案も可能になる。

こうした新しい技術が注目される背景には、顧客個人がインターネットで独自に情報を収集するようになったことや、LCCなどの新興航空事業者がGDSとは関係なくインターネットで新しい提案を行うようになったことなど、業界全体が大きく変化している事実がある。「今、航空業界、旅行業界そのものがデジタルトランスフォーメーションの最前線にいます。この事実は間違いありません」と指摘する藤原氏は、近い将来、航空券の流通革命が起こることを示唆した。

旅行産業の未来はコネクティビティ化へ

アソビュー株式会社
代表取締役社長
山野智久氏

IATA藤原氏が語ったように、現在「旅行」という体験において、インターネットやSNSが大きな影響力を持つようになっている。そんな行動変化にいち早く対応し、タビナカ(旅中)のデジタルサービスに取り組んできたのがアソビューだ。セミナー最後のセッションに登場したアソビュー株式会社 代表取締役社長の山野智久氏は、「観光のIT化による最も大きなインパクトは、膨大な顧客がインターネット上で意思決定を行い、予約購入するようになったことです」と説明する。

「より具体的に言えば、自分自身で、自分の時間の都合や趣味嗜好、予算に合致する選択肢を、移動・食事・遊び・宿泊・土産のそれぞれで選べるようになりました。インターネット前は、旅行代理店がこの作業を行っていましたが、今や旅行産業の存在価値は、当時ほど高いものではなくなっています」

アソビューは、そんなデジタル時代の旅行体験をより便利・安心に実現するよう、旅行者に対しては「遊び体験の予約」機能を、観光産業の事業者に対しては「在庫管理・決済」機能を持つマーケットプレイス「asoview!」を運営している。最近は、特別な体験を企業の顧客や家族に提供する「asoview!GIFT」も展開し、テクノロジーを活用して遊び全般のイノベーションを興しているという。

そんな同社が今注目しているのは「コネクティビティ」だ。かつての旅行代理店は、そこにしかない情報に価値があったからこそ顧客が訪れたが、その情報がインターネットで入手できるようになった今日、「さまざまな情報が『集約』されたプラットフォームが、大きな価値を持つ時代になるのではないでしょうか」と山野氏は語る。実際、アソビューも自社のマーケットプレイスにある情報を、ほかのネットサービスや旅行代理店と連携させて販売チャネルとすることで、旅行客の利便性を上げ、価値向上を実現しているという。

最後に山野氏は「海外の有識者からも、旅行に関するあらゆるサービスを集約したプラットフォームの登場により、旅行客の利便性を上げる方向に行くという意見があります。今後旅行業界は、他社との協業により提案できる価値や強みを発信しながら、事業を展開していくのではないでしょうか」と語り、旅行業界が1つのプラットフォーマーとたくさんのサービスプロバイダーでビジネスエコシステム化していく未来を示した。

セミナー会場には、日本ユニシスが展開するFESTRAVELのデモや、大津市とのMaaS共同実験の成果も展示。スマホアプリやネット情報というICT分野だけでなく、店舗や移動手段など実際のサービスと組んで、「移動し、体験する」というビジネスエコシステムを築くことで、旅行者や地域経済の活動を活性化できることが実感できた。

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