コンピュータゲームで健康長寿社会の実現を目指す!

「Game Wellness Project」が目指す壮大な夢

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コンピュータゲームをスポーツ競技として捉える「eスポーツ」は、今や世界規模の大会が開かれるほどの大きな盛り上がりを見せている。一方、ゲームの中毒性を指摘する声もある。こうした中、ゲームプレイヤーのプレイ時のパフォーマンスをさまざまなアプローチから検証し、ポジティブ・ネガティブの両側面を可視化することによって、より豊かなゲームライフの創造と、将来的に心身や脳の健康増進に寄与するプロジェクト「Game Wellness Project」が2020年4月から始動した。「デジタル治療」への期待も高まっているだけに、ゲームの幅広い分野への応用や「ニューノーマル時代」のスポーツの在り方を考える観点からも可能性は広がるだろう。本プロジェクトは今、何に注目し、どのような成果を上げているのか、その最前線を取材した。

メンタル面での効果を
データによって検証・可視化する

ゲームと健康を結びつける「Game Wellness Project」は、ゲームエイジ総研、産経デジタル、レノボ・ジャパン、ヒューマンアカデミー、そして日本ユニシスの5社による共同プロジェクトとして2020年2月に発足。4月から本格始動している。ゲームプレイヤーの活動データを利活用することで、ゲームプレイヤーの強化だけでなく、心身や脳の健康、健康寿命の延伸に寄与するのが目的だ。

このプロジェクトは「eスポーツにおける心理学・行動科学ベースのスポーツマネジメント研究」に取り組む九州産業大学 人間科学部 准教授(※) 萩原悟一氏の指導下で実証実験が行われ、専門学校におけるeスポーツ学科での導入や高齢者向け施設への導入を試験的に実施しながらデータを蓄積していくものだ。日本ユニシスはデータ基盤のプラットフォーマーとしての役割を担い、デジタルコンテンツを用いた健康促進に関する新たなビジネスモデルの創出を目指す。

※ 萩原氏は、2020年8月取材当時、鹿屋体育大学 准教授

写真:九州産業大学 人間科学部 准教授 萩原悟一氏
九州産業大学 人間科学部
准教授 萩原悟一氏

萩原氏がeスポーツに着目した背景には研究者としての使命感があった。「eスポーツもスポーツの1つです。スポーツ科学の研究者として、eスポーツの価値を突き詰めたいという思いから、eスポーツの研究に取り組むようになりました。特に課題遂行能力や集中力、注意力向上といった効果が期待できると考えています」と語る。

萩原氏は、eスポーツを「する」「みる」「ささえる」という3つの視点で研究を重ねている。「する」「みる」領域の研究では、脳波から感性を可視化できるアプリケーション「スポーツKANSEI」を開発。eスポーツ実践時の「集中力」や観戦時の「満足度」などを検証している。また、認知機能測定テストを用い、eスポーツを実践することによる効果についても検証を重ね、「ささえる」領域の研究ではメンタルスポーツであるeスポーツのトレーニングメソッドの確立を目指した研究を推進している。

「スポーツKANSEI」のイメージ

図:「スポーツKANSEI」の機能イメージ
簡易脳波計を用いて取得した脳波からスポーツ選手の心理状態や観戦者の心理状態をリアルタイムで計測・表示可能なアプリケーション「スポーツKANSEI」
写真:「スポーツKANSEI」を装着した様子
「スポーツKANSEI」を装着した状態でゲームをプレイしている様子

多様なステークホルダーをつなぎ
「Game Wellness Project」が始動

そんな萩原氏と社会課題の解決を目指す日本ユニシスとの出会いは、ある展示会だった。スマートタウン戦略本部 事業開発部 共創ビジネスプロジェクトの大内敦史は次のように振り返る。

「2019年から世界的にも大きな社会課題であるゲーム依存症や、心身の健康をテーマにした企画を検討していました。そんな中、展示会で萩原准教授の研究を知りました。先進的かつ共通のビジョンのある取り組みに感銘を受け、当時、産経デジタルさまと検討していた本プロジェクトの構想についてお話し、一緒に取り組むことができないか、ご相談に伺いました」

写真:日本ユニシス スマートタウン戦略本部 事業開発部 共創ビジネスプロジェクト 大内敦史
日本ユニシス株式会社
スマートタウン戦略本部 事業開発部
共創ビジネスプロジェクト 大内敦史

その後、ゲームに関係するステークホルダーが集まり、「Game Wellness Project」がスタート。日本ユニシスの提唱する「ビジネスエコシステム」への第一歩を踏み出した。ゲームビジネスに特化したコンサルティングファームのゲームエイジ総研はゲームの心身への影響に配慮したゲーム開発、さまざまな企業のeスポーツシーン参画のコンサルティングを行う。産経新聞グループの産経デジタルはゲーム会社との関係性強化、レノボ・ジャパンはゲーミングPCの開発に役立てるといった役割を担い、参画している。

教育機関として参画したのが、2020年4月にeスポーツを専門的に学べる「e-Sportsカレッジ」を開講したヒューマンアカデミーである。講義計画に萩原氏の研究結果を試験的に導入し、数カ月にわたって学生のゲームプレイ時における脳波などの各種データ測定を行っている。

各界から注目を集めた
実証実験の成果報告

「Game Wellness Project」はコロナ禍の中でも、ソーシャルディスタンスを確保して3密を回避しながら実験を行い、さまざまな切り口でゲームプレイ時におけるプレイヤーの脳の活性度やパフォーマンス状態を検証してきた。その1つには、注意力や認知機能を測定するために、正確な色を言葉に出して伝える「ストループテスト」や数字やひらがなを線で結ぶ「Trail Making Test(TMT)」も用いられている。

萩原氏は「ゲームのジャンルによっては、課題遂行能力や短期的な記憶力であるワーキングメモリー能力が向上することが分かってきました。注意機能も向上しています」とこれまでの研究成果を語る。ワーキングメモリーの向上は仕事のスピードアップにも大きな効果をもたらすものと考えられている。

この他にも、ゲームプレイから平均15分後に「ゾーン」と呼ばれる極めて集中度が高い状態に突入することや平均2時間後には集中力がダウンする点、シングルプレイは集中力がアップし、複数でプレイするマルチプレイではリラックス度が高まることなどが分かってきた。

「興味深いのは、プロのeスポーツプレイヤーは、とてもリラックスした状態でゲームをプレイしていることです。脳波も安定していて、ほとんど感情が変わらずに平常心でプレイしていることがデータから見えてきました」と萩原氏は語る。

こうしたゲームプレイ時における脳の活性状態とパフォーマンスの研究成果は、2020年6月にプレス発表され、反響を呼んだ。ゲームの心身への影響はメンタルヘルスにもつながるだけに幅広い分野への応用や「ウィズコロナ」を機にスポーツの在り方を考える観点からも可能性は広がるだろう。大内は期待をこう話す。

「現在の実証実験は9月で一旦終了し、今後は『ゲームと健康』というテーマで参加企業各社とビジネス検討が始まっています。プロジェクトがメディアで取り上げられたことで、参画したいという企業も増えています。新しい企業とのシナジーも含めて21世紀のヘルスケアに寄与するビジネスを構築していきたいと思います」

多くのデータを蓄積して
健康増進・延伸に向けた取り組みを加速する

「Game Wellness Project」の大きな魅力は、eスポーツと健康との関係性を可視化できる点だ。収集データからはメリットだけでなく、デメリットも浮かび上がってくることだろう。しかし、さまざまなデータを収集し、利活用プラットフォームに蓄積・分析していくことで、健康増進や健康延伸に向けた新たなサービスを展開していくことが可能になるだろう。

「日本ユニシスにとっても、これは新しい挑戦領域です。ゲームプレイが心身に与える影響がデータ上で明らかになれば、脳を活性化する教育コンテンツや健康増進のためのアプリケーションの開発にもつながります。今後は、IT企業としての強みを生かし、各社との共創ビジネスにおいて安全なデータ流通基盤を提供していきます。そして、チャレンジを積み重ねる中で、社会課題の解決に向けて一歩ずつ着実に取り組んでいきたいと考えています」と大内は意欲を語る。

そして萩原氏は、研究の目指す姿として研究対象の拡大を視野に入れている。具体的には「子ども」と「高齢者」、そして「働く世代」の3つを対象としたeスポーツの可能性を検討していく考えだ。

「ゲームアプリを使って、注意欠如や多動性障がいの治療に役立てたり、ゲームプレイによって高齢者の注意機能を向上させて認知症予防につなげたりできるのではと考えています。さらに、コロナでスポーツが制限される中、ゲームによって働く人の士気を高めたり、コミュニケーションを充実させたりすることにも役立てられるのではないかと思います」

こうした構想を実現させるカギは、蓄積されるデータの質と量にある。萩原氏は「より多くのデータ収集が実現できれば研究はスムーズに進みます。今後は多くのステークホルダーとの協働や海外の研究者との連携も必要です。その仕掛け人としても日本ユニシスに期待しています」と語る。

「ゲームで健康と長寿を実現する」という壮大な夢はまだ始まったばかりだ。eスポーツの可能性を模索する、「Game Wellness Project」の今後の展開に期待したい。

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