「日常から旅の終わりまで」接点つなぐ顧客体験価値向上へ

ANA、既存システムに分散するデータを仮想データベースでリアルタイム統合

全日本空輸株式会社(以下、ANA)は、顧客に関する情報や運航情報などをリアルタイムに連携する「Customer Experience(CE)基盤」を構築した。これにより予約サイトから空港カウンター、機内まで、顧客とのさまざまな接点をつないだタイムリーな情報共有を実現。よりきめ細やかなサービス提供を図り、顧客体験価値を向上していくことを目指す。

一連のストーリーを通じて
ワンツーワンのサービスを提供

総2階建て520席の世界最大の旅客機であるエアバスA380を国内の航空会社として初めて導入。いよいよ2019年5月24日から成田-ホノルル便に就航させるなど、今ANAには世間の熱い視線が注がれている。

ANAの取り組みで注目すべきは、こうした最新鋭機材の導入といったハード面の拡充だけではない。2018-2022年度の中期経営戦略において、ANAグループの中核企業として「“ダントツ品質”により、お客さまに満足していただける価値を提供し続ける」というメッセージを掲げ、顧客満足度の向上を目指している。

全日本空輸株式会社
デジタル変革室 イノベーション推進部
サービスイノベーションチーム
マネジャー
加藤真子氏

そして、その思いを具現化すべくANAが、2018年1月から設計/構築に取り組んできたのが「Customer Experience(CE)基盤」である。その名のとおり、さまざまな接点を通じて顧客に提供する体験価値を高めていくためのシステムだ。

デジタル変革室 イノベーション推進部 サービスイノベーションチーム マネジャーの加藤真子氏は、CE基盤の構築の狙いをこのように語る。

「ANAの体験はさまざまなシーンをつなげてつくられています。ANAの視点でいえば、さまざまな現場があり、それぞれが最高のサービスを提供することでお客さま満足度を向上しようと日々努力しています。しかし、お客さまにとっては、ANAでの体験トータルでどうなのか、が重要だと考えます。お客さまの空港での様子を空港係員がキャビンアテンダント(CA)に伝え、CAが機内で適切なお声掛けができたら、お客さまの過去のご利用時の要望を把握して、コールセンターが先んじてご要望をお伺いできたら、きっとお客さまは気持ちよく感じていただけると思います。あらゆる接点をしっかりつないだ中で、お客さまに快適さや喜びを感じていただくことが、ANAとして提供すべきと考えている体験価値のあり方です」

具体的にはANAは、予約、空港や機内をはじめ、日常から旅の終わりまで13の「シーン」を設定。これらのシーンを移動していく顧客の一連のストーリー(カスタマージャーニー)を通じて、お客さまの個を認知したワンツーワンのサービスや、一貫性のあるサービス・サポートを提供していくことを目指している。

既存システムを仮想的に統合し
最新データをリアルタイムに共有

全日本空輸株式会社
デジタル変革室 イノベーション推進部
データデザインチーム
アシスタントマネジャー
井岡大氏

しかし、この構想を実現するのは簡単なことではない。先述のようなさまざまなシーンを支えている既存のシステムは個別最適で設計されており、それぞれの業務のサイロ内でしかデータを利用できないからだ。

デジタル変革室 イノベーション推進部 データデザインチーム アシスタントマネジャーの井岡大氏は、「分散する複数のシステムに横断的にアクセスし、任意のお客さまにひも付くデータを抽出し、相互に突き合わせ、さまざまなシーン(業務)でのサービスに生かせる形の情報に変えて、迅速に現場にフィードバックする仕組みを用意する必要があります」と語る。すなわちそれが、目指すCE基盤の概要だ。

CE基盤の概要(出典:全日本空輸)
CE基盤の概要(出典:全日本空輸)

そして、このCE基盤を共に構築していくパートナーとして選定されたのが日本ユニシスである。同社 公共ビジネスサービス第一本部 エアラインサービス部 第一室 室長の森重智郷は、「私たちはANAのコアコンピタンスである国内旅客システムの構築・運用を40年以上にわたって担うほか、貨物系、通信基盤系、Webフロントなどにも携わり、ANAの業務を熟知しています。また、今後に向けて何をやりたいのか、つまり志の部分も肌感覚でつかんでいます。そんな私たちの実績と姿勢を評価していただけた結果と自負しています」と語る。

こうして日本ユニシスは、最先端のテクノロジーやビジネス企画に長けた人材を全社から選抜し、CE基盤の構築プロジェクトを編成した。実際にそこでどんな課題解決を図ってきたのだろうか。

まずCE基盤のアーキテクチャーについて、日本ユニシス 公共ビジネスサービス第一本部 エアラインサービス部 第二室 室長の和田啓は、「仮想データベースを活用することで複数のシステムに分散しているデータを仮想的に統合し、必要なときに、最新のデータを、リアルタイムで取得できるプラットフォームを構築しました」と説明する。

さらに、このデータ統合の中で特にこだわってきたのが「名寄せ」の機能だ。日本ユニシス 公共ビジネスサービス第一本部 エアラインサービス部 第二室 第一P長の内田実希は、「さまざまなシステムで個別に捉えてきたお客さまを、システム横断で『同じお客さま』として認識するのが名寄せです。全てのお客さまにシーンをまたいで一貫したサービスを提供するための、まさに核となる機能です。あらゆる属性や履歴を相互に突き合わせて手掛かりとし、お客さま情報を一元的に抽出できる環境を整えました」と強調する。

(写真左から) 日本ユニシス株式会社
公共ビジネスサービス第一本部 エアラインサービス部 第二室 室長 和田啓、
公共ビジネスサービス第一本部 エアラインサービス部 第一室 室長 森重智郷、
公共ビジネスサービス第一本部 エアラインサービス部 第二室 第一P長 内田実希

CE基盤を短期間でローンチ

そして2018年10月末、CE基盤は運用を開始した。実に1年に満たない短期間の開発で稼働にこぎ着けたことになる。

「全社的なシステムでありながら、これは従来では考えられなかったスピード感です。仮に全てのシステムのデータベースを1つに統合するといったアプローチを取っていたならば、最低でも2~3年の開発期間を要していたでしょう。仮想データベースという革新的な技術を駆使し、既存システムの改修を最小限に抑えたことが最大の成功要因です。プロジェクトを一貫してリードしてくれた日本ユニシスにとても感謝しています」と井岡氏は語る。

なお、このCE基盤によってANAは2019年3月7日、一般社団法人 日本データマネジメント・コンソーシアム(JDMC)が主催するデータマネジメント賞において、「データマネジメント大賞」を受賞するに至った。仮想データベースを活用したシステム構築方法、および分析基盤との連携など、リアルタイムデータ統合を実現した点が、同様の課題を抱えている多くの企業のモデルケースとなり得ると評価されたものである。これは航空業界として初めての快挙だ。

200を超える新サービスのアイデアで
体験価値の実現フェーズへ

もっとも、本当の意味でのスタートはこれからだ。「CE基盤により、予約、空港、機内などさまざまな接点でタイムリーな情報共有が可能となったこと、また、分析での活用も可能になったことで、情報をどのように活用してお客さまにどのようなサービスを提供していくべきなのか――。いよいよ新たな体験価値の実現フェーズに移ります」と加藤氏は語る。

そのアイデアを生み出すために、ANAは「ミツバチ」という発想法に基づいたワークショップを開催している。これは「2匹のミツバチ」を想定したもので、1匹のミツバチは情報を「収集」する能力を持ち、もう1匹は情報を「提供」する能力を持つという2つの異なる役割を組み合わせることで、新サービスを考えやすくする。第1回ワークショップではANAの役員ほぼ全員が参加したということからも相当な“本気度”がうかがえる。

こうした取り組みの結果、すでに200を超える新サービスのアイデアが社内に蓄積されているという。これらのアイデアに優先順位を付けながら、日本ユニシスとも連携し、順番に形にしていくというのが今後のANAの取り組みだ。

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