火力発電所設備を自律飛行ドローンで監視し、パトロール業務を効率化!

東北電力のデジタルイノベーションへの挑戦

東北電力・秋田火力発電所で現在稼働停止中の3号機において、自律飛行するドローンを活用した設備パトロール自動化の実証試験が行われている。火力発電所では、電力の安定供給のために多くの時間と労力をかけてパトロールを実施している。こうした状況の改善なども視野に入れた実証試験を踏まえ、同社が目指すのは、2023年に営業運転開始を予定している上越火力発電所への導入だ。その後は、他の発電所への横展開も視野に入る。日本ユニシスは、この取り組みにパートナー企業として参画し、画像解析やシステムインテグレーションなどの分野で重要な役割を担っている。

ドローンによる設備パトロール自動化の実証試験を開始

東北電力は、東北6県と新潟県を中心に事業を展開している。電力自由化の動きを受け競争環境が厳しさを増す中で、同社は業務改善に取り組んでいる。その一環として期待されるのが、デジタル技術の利活用だ。2019年7月には、本店企画部に「デジタルイノベーション(DI)推進室」を設置。全社的な組織体制を整え、さまざまなデジタル施策を打ち出している。同社発電・販売カンパニー火力部 副部長(火力デジタルイノベーション推進担当)の千葉耕助氏はこう語る。

東北電力株式会社
発電・販売カンパニー火力部 副部長
(火力デジタルイノベーション推進担当)
千葉耕助氏

「本店企画部にDI推進室が立ち上がる2年前から、火力部ではデジタル担当チームを結成し、先行的にDIに取り組んできました。現在はDI推進室と連携を取りながら、AIやIoT、ロボティクスなどの活用を模索しています。その1つが、日本ユニシスとともに推進しているドローンによる設備パトロールの自動化に向けた実証試験です」

火力発電所には多様な設備が並び、その間を燃料や高温高圧の蒸気が通過する配管類が縦横に走る。正常な稼働を維持するには、運転員の定期的なパトロールが欠かせないが、高齢化などのため担い手不足も深刻化している。こうした課題の解決が実証試験の目指すところだ。「当面の目標は、2023年6月に営業運転開始を予定している上越火力発電所への本格導入です。最新鋭火力発電所にドローンによる設備パトロール自動化の仕組みを導入したいと思い、2017年ごろから検討を始めています。将来的には、上越火力以外の発電所にも展開したいと考えています」と千葉氏。ドローン製品や関連技術の情報を収集する中で、日本ユニシスに注目した経緯を千葉氏はこう話す。

「日本ユニシスは多様なドローンメーカーとの接点を持ち、現場のニーズに応じて柔軟な提案をすることができます。また、積極的に社会課題の解決に取り組む中立的な立ち位置や、高い技術力が魅力的でした」

火力発電所各機器の正常な状態をAIが学習
「間違い探しができるレベル」に到達

2018年度から両社のパートナーシップは動き始めた。同年夏に東北電力火力技術訓練センター(宮城県内)で、そして2019年春には同社の新潟火力発電所でドローン飛行検証を試験的に実施。得られた知見を活用し、今年度から秋田火力発電所を舞台として本格的な実証試験がスタートした。

「想定しているのは、発電所屋内の設備パトロール自動化です。火力発電所の多くは設備冷却に海水を使います。このため沿岸部に立地することも多く、屋外飛行では強風の影響を受けやすい。このため、まずは屋内運用が適していると考えました。一方、既存の火力発電所屋内は通信環境に限界があり、GPS活用などが難しい側面もあります。こうした背景から屋内でドローンを自律飛行させる技術に挑戦したい、との思いもありました」(千葉氏)

2018年から翌年にかけて行われた飛行検証を経て、東北電力と日本ユニシスはいくつかの候補からドローンを絞り込んだ。採用されたのは国内ベンチャー「株式会社自律制御システム研究所(ACSL)」の製品。幅55センチほどで、重さは4キロ弱(バッテリー搭載時)。選定ポイントは、「ACSLが強みを持つ自律制御技術でした」と日本ユニシスの下舘寿大は話す。

日本ユニシス株式会社
新規事業創出部 PFイノベーション室
チーフ・スペシャリスト
下舘寿大

「当初は屋内の柱などに、屋外でいうGPSの代替となるような外部センサーを取り付け、ドローンの位置を把握するアプローチを検討しました。しかし、広大な発電所内各所に外部センサーを設置するには相当の費用がかかります。そこで、自律飛行能力の高いACSLのドローンを採用しました。このドローンは、外部センサーなしにドローンに搭載されたステレオカメラのみでドローン自身が自分の位置を把握しながら自律飛行します」

ACSLのドローンを採用した背景には、ビジネスへの実装スピードを重視する東北電力の姿勢もあった。「デジタルイノベーションでは、スピード感が求められます。研究開発の上流から技術を育てるのではなく、できるだけ優れた既存技術を組み合わせて現場で活用・展開したい。ドローンを含めて、さまざまな技術要素をこうした観点で見極めていきたいと考えます」と千葉氏は説明する。

秋田火力発電所における実証試験の主なテーマは、ドローンの飛行性能確認とドローン搭載カメラ(自律制御するためのステレオカメラとは別の、異常を検知するために搭載されたカメラ)でとらえた画像の解析である。画像解析に関しては、日本ユニシスの空間認識プラットフォーム「BRaVS(ブラーブス)」を活用している。BRaVSは、AIのディープラーニングにより物体認識や物体検出、異常検知、異常動作検知、画像作成などの機能を提供するプラットフォームである。東北電力では、火力発電所各機器の正常な状態を学習した上で、異常を検出するアプローチで設備パトロール自動化を目指している。

「実証試験を通じて、パトロールのルートに沿ってドローンを飛ばし、配管の状態やバルブを画像記録する点はある程度の見通しが立ちました。また、配管下や隙間といったかなり狭い空間での飛行も可能でした。ただ、画像解析には課題が残っています。屋内とはいえ、太陽光が差し込むことがありますし、照明の当たり方によっても記録画像に差異が生まれます。画像状態にバラツキがある中で、安定解析を高精度で行う必要があるため、解析を担うAIのチューニングを行っています」と千葉氏は話す。

加えて、画像解析にはドローン特有の課題があるようだ。「画像解析は、固定カメラで記録した画像を用いるのが一般的です。しかし、ドローンに搭載したカメラは動き回ります。揺れ動く中で撮影された画像の解析はかなりハードルが高い。当初は苦労しましたが、チューニングを工夫することで一定精度を得られるようになりました。今後、より一層精度を高めるには、さらなる試行錯誤が必要です」と下舘は説明する。

2019年末の段階で実現した精度は、「間違い探しができるレベル」というのが千葉氏の評価だ。例えば、バルブ開閉の位置や配管接続の状態が通常と異なるなどの際に、高い精度でAIが異常と判断する。異常を検出してアラームを通知すれば、運転員が急行するといった運用が今後は可能になるだろう。「異常の検知、早期検知の先には、AIによる異常の原因推定も実現したい」と千葉氏は意欲を語る。

汎用技術を確立し、
多拠点展開も視野に

設備パトロールの自動化が実現すれば、運転員の負荷軽減や省力化につながる。そこには、技術・技能継承という側面もある。千葉氏は「火力発電設備の保守・点検には、些細な不具合の予兆を見逃さない運転員の熟練した技術・技能が必要です。パトロールの勘所をAIに学習させることで、これまでの監視レベルを維持することに加え、さらなる精度向上が可能になるでしょう」と話す。

設備パトロールの自動化に向けては、ドローンが自律的に充電設備にアクセスし、自動給電して再び飛び立つ運用も実現すれば高頻度での設備パトロールの実現が視野に入る。さらに、ドローンは高い視点から設備を俯瞰的に点検できる。これまで取得できなかった画像解析を通じてパトロールの質向上も期待できるかもしれない。「目指すのはリアルタイムの画像解析です。リアルタイムで画像解析プロセスを走らせ、異常を発見した際は、中央制御室に常駐する運転員へ通知するといった状態にする予定です」と下舘は話す。

秋田火力発電所での設備パトロール自動化に向けた実証試験の様子。細かな調整を繰り返しながら、複雑な火力発電所内をドローンが自律的に飛行し、摸擬した異常箇所を撮影していく。

秋田火力発電所での実証試験では、画像だけでなく、においや音などの感知も視野に入れている。運転員は視覚だけでなく、五感すべてを使って異常の有無を判断しているからだ。人間によるパトロールにより近づくためにはにおいセンサーやマイクをドローンに搭載し、異常なにおいや音を検知する技術開発も求められる。

さらに、いずれは屋内だけでなく、屋外への適用にも挑戦したいと千葉氏は考えている。「今回は屋内に絞りましたが、屋外設備パトロールにドローンを使えば更なる効果が期待できます。将来的には、風に強いドローンなども登場するでしょう。ドローンを含めさまざまな要素技術の進化を取り入れていきたいと思います」。

前述のように、東北電力はドローンによる設備パトロール自動化を、上越火力発電所だけでなく、多くの火力発電所で横展開することを目指している。そこで重要になるのが、汎用技術の確立だ。下舘は「1つの発電所だけに適用する技術では、高い費用対効果を生み出すのは難しい。多拠点に汎用技術を展開できれば費用対効果は高まります。そこで、汎用技術の上に最小限のカスタマイズで各拠点に導入できる仕組みづくりを試行錯誤し続けています」と語る。

汎用性の高い設備パトロール自動化の仕組みを実現すれば、将来的には、発電所以外のプラントへの適用も視野に入るだろう。ドローンによる設備パトロールが有効と考えられる適用領域は広い。そのフロンティアを開拓すべく、2人の思いを載せたドローンは今日も飛び続けている。

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