1年間で4つの新規事業構想を生み出したプロジェクト「DiCE」

伴走型アクセラレータ・プログラムでデータ利活用起点の社会課題解決を目指す

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企業間データ連携による生活者の課題解決を目指す新規事業開発プロジェクト「DiCE(Digital Chain Ecosystem)」の1年にわたる活動が2023年10月に終了した。本プロジェクトでは、あいおいニッセイ同和損害保険、朝日生命保険、日本航空の3社が中核企業として参画し、各社が選定したテーマに関する事業創出を目指した。この活動においてBIPROGYは、データ連携サービス「Dot to Dot」の提供に加え、eiicon(エイコン)とともに伴走支援活動を行なった。最終的に、企業連携による4つの事業構想が創出された。プロジェクトはどのように発足し、どのような成果を上げたのか。BIPROGY担当者とプログラム全体を支援したeiiconの香川脩氏(Incubation Sales事業部 部長)、あいおいニッセイ同和損害保険の猪俣雄太氏(デジタルビジネスデザイン部 課長補佐)、朝日生命保険の杉山恭太氏(デジタル戦略企画部)を交えて話を聞いた。

ヘッドライン

「Dot to Dot」を起点に、新規事業開発プロジェクトを立ち上げ

――まず、事業開発プロジェクト「DiCE」をスタートしたきっかけを教えてください。

写真:大槻剛
BIPROGY株式会社
戦略事業推進第二本部 事業推進二部 DPプロジェクト 大槻剛

大槻BIPROGYは、これまでも企業・地域と連携して新規事業を創出し、私自身も担当者として多くのコンソーシアムに参加してきました。課題に感じたのが参加者の温度感です。全員が事業化に向けて必ずしも本気で臨んでいるわけではなく、情報収集のために参加する場合もある。私たちには「社会課題の解決につながる新しい事業を、パートナー企業の皆さんと一緒につくっていきたい」との思いがあるため、新規事業に直結するコンソーシアムを、自分たちで立ち上げました。当社の強みである「デジタルで社会とつながる」ことをテーマに掲げ、それに賛同する企業に参画していただきました。

写真:香川脩氏
株式会社eiicon
Enterprise事業本部 Incubation Sales事業部 部長
兼 株式会社XSprout 代表取締役 香川脩氏

香川eiiconは、日本企業の新規事業創出のためにオープンイノベーションに取り組んでおり、私は大企業を支援する部門の責任者をしています。かねてから「日本企業を元気にするには、大企業のアセットを開放してスタートアップの技術とイノベーションを結びつけることが重要」と考えていました。DiCEの狙いは、複数の企業間のデータをn対nの関係で連携させることによる新規事業の創出だと聞き、まさに私たちのビジョンと一致していると感じました。また、参加企業が事業構想を事業化するために、当社からも力強くコミットメントしたいと考えていたので、BIPROGYと一緒にチャレンジしたいと考えました。

写真:山形美菜都
BIPROGY株式会社
グループマーケティング部 オープンイノベーション推進室 山形美菜都

山形これまで当社もさまざまな形でオープンイノベーションに取り組んできました。その中で蓄積してきたノウハウや、スタートアップ各社と築き上げてきた関係性、多様なファンド情報を本プロジェクトで活用できれば、との考えもありました。

――他のコンソーシアムとの違いはどこにあるとお考えでしょうか。

大槻最大のポイントは、事業化に向けて参加企業と同じ視点に立ち伴走し、ともに汗をかいて取り組んでいくと決めた点です。eiiconさまと一緒にやろうと考えたのも、きれいな絵を描くだけのコンサルティングではなく、新規事業創出を強力にアシストできるよう、「クライアントと一緒に泥臭く絵を描いていこう」と言ってくれたからです。

データ連携を掲げた点も大きな特徴です。BIPROGYでは「Foresight in sight」をコーポレートステートメントに、さまざまな企業や団体との有機的な連携に尽力しています。そこで求められる先見性と洞察力を磨くには、各社が持つデータを連携させ、1社では見出せなかった視点を得る必要があります。当社ではこれまでに、データ活用ニーズの高まりを予見し、生活者が自らの意思で連携先を選択するデータ連携基盤「Dot to Dot」を構築して実績を上げてきました。この成果をベースに、さらにデータ連携を加速させるために大企業とスタートアップを結びつける活動をしたいと考えていました。

香川今は「オープンイノベーション3.0」という言葉が使われるように、新しい事業を生み出すには複数企業を巻き込んだ形が主流になっています。しかし、実際には複数企業間での「データ連携」にとどまってしまい、真の目的である「データ活用」までは踏み込めていないのがほとんどです。その意味でも、チャレンジしがいのあるプロジェクトだと思いました。

従来のコンソーシアムの枠を超えたビジネス創出へのこだわり

――DiCEに参画された中核企業としてはどんな思いや狙いがあったのでしょうか。

写真:猪俣雄太氏
あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
デジタルビジネスデザイン部 プランニンググループ 課長補佐 猪俣雄太氏

猪俣あいおいニッセイ同和損保のデジタルビジネスデザイン部は、外部とのオープンイノベーションを軸に新規事業を立ち上げるために新設された部署です。当社は保険会社ですが、今後、オープンイノベーションによって保険以外の領域のビジネスを創出したいと考えています。DiCEに参画した理由は大きく2つ。1つは、先ほど話題にあがったように、他のコンソーシアムでは、「汗をかいて事業化を必ずやり遂げよう」という意志や熱意に参加企業ごとのばらつきがあり、思ったような成果を得られていなかったことです。DiCEの枠組みでは事業化に向けたコミットメントがとても強く感じられましたので、参画を決めました。

もう1つが、DiCEがテーマに掲げるデータ連携に関心があったからです。保険会社はデータの宝庫のようにいわれることがよくありますが、私たち自身ではデータの活用方法がなかなか見いだせていません。データを活用してビジネスを展開するトレンドがある中で、外部企業であれば、私たちが持っているデータの活用策を見いだしてくれる期待感がありました。また、BIPROGYのデータ活用のノウハウを知見として自社に取り込みたいとの思いもありました。

写真:杉山恭太氏
朝日生命保険相互会社
デジタル戦略企画部 ASAHI DIGITAL INNOVATION LAB 杉山恭太氏

杉山私は朝日生命のデジタル戦略企画部 ASAHI DIGITAL INNOVATION LABに所属しています。部のテーマは新しいビジネスモデルの創出とお客さまへの新たな付加価値の提供です。そのためにメタバースの運営、生成AIの活用、新たな保険サービスの提供の3つを主軸として活動しています。

プロジェクトに参加する前から、「新規事業を創出するには自社のデータだけでは足りない」という課題意識を持っていました。生命保険会社としてお客さまの一生に寄り添うことをテーマにはしているものの、お客さまのデータを取得できるタイミングは保険契約時や保険金のお支払い時などに限られるのが現状。日頃、お客さまがどんな生活をし、どんな課題を感じているのかは分かりません。これらを他社とのデータ連携によって解決できるのではないか、と考えたのがきっかけです。お客さまの日々のライフタイムイベントを察知し、今抱える課題が分かるようなデータを取得できないか、そしてそれを活用することで今まで以上にお客さまの人生に寄り添うことができる事業を生み出せないだろうか、と期待しての参画でした。

参加企業と一緒に汗をかきながら事業化を支援

――どのような新規事業の創出に取り組まれたのでしょうか。

猪俣私たちは2つのプロジェクトを手がけました。1つは交通事故の未然防止。ITやIoTを活用し学校業務や子どもの安全を支援するスタートアップ「ドリームエリア」とタッグを組みました。ドリームエリアが開発するIoT端末を児童などに装着してもらい位置情報を把握し、自動車側と歩行者側にアラートを発信することで、事故を未然に防ぐものです。プログラムの期間中に三重県鈴鹿市で実証実験を実施し、ニーズの確認とともに初期的な通知が可能な段階までは実証できました。将来的には交通事故そのものがなくなることを期待しています。

もう1つは従業員のメンタルリスクを事前に把握して未然予防ケアにつなげるサービスです。当社のサービスには従業員に補償を提供する企業向けの所得補償保険がありますが、就業が不可能になってから補償するのではなく、その前に従業員の方々の体調管理を行い、特にメンタル面でのトラブルを事前に回避していただければ、と考えました。このサービスでは、さまざまなデータから「感情の可視化」に取り組む企業「Olive」が提供する、AIで人の感情を予測するソリューションを活用しています。パソコンの内蔵カメラ等の映像から感情を分析し、リスクの予兆を感知する仕組みです。実証実験まではたどり着けなかったのですが、企画構想はまとまったため、今後、所得補償保険の付帯サービスとして検討していきます。

杉山朝日生命としては、主力商品の1つが介護保険ということもあり、認知症の予兆検知から予防改善、治療と介護支援までトータルでサポートできる事業開発に取り組みました。これらに取り組むスタートアップ「CogSmart」「FOVE」とともに、認知症の早期発見と対策を実現する認知機能リスク評価、機能改善サービスの提供を通じ、新たなアライアンスコミュニティーを創出することを目指しました。具体的には、FOVEのVRゴーグルを使って認知機能の低下をチェックするサービスを提供するとともに、CogSmartのウェアラブル端末で、運動によって脳の海馬を育成するアプリの提供も手がけました。これらのソリューションを通じてお客さまが何歳になっても自分らしく生きることをサポートできればと考えています。

――プロジェクトを進めていく上で大変だったのはどんなところでしょうか。

香川朝日生命さまのプロジェクトでは当初、現状は取り込めていない若年層をターゲットにしたい、というところからスタートしていました。しかし、途中で方針転換して朝日生命さまのメイン領域である介護保険に関する事業に行き着いた経緯がありましたね。

写真:山形、大槻、香川氏

大槻最初は大きめの粒感で始まったプロジェクトが、スタートアップ各社と会話を重ねるなどして事業構想の内容が細かく具体化されていくと、社内外からもさまざまなフィードバックが出るようになります。それらを受け、改めて構想を見直して方針転換を図るのは、新規事業開発ではよくあるケースです。今回は、最終的に認知症をテーマに据えるまで丁寧に社内の合意を取ったことが、実証実験の段階まで進められた成功要因の1つだと思います。

杉山テーマを絞り込むところから伴走してもらい、最初は広くお客さまの人生に寄り添うにはどうしたらよいかを考え、議論を進めていました。しかし、経営陣の示唆もあり、プロジェクト始動から半年ほど経過したところでテーマを認知症に変更しました。残された期間が少ない中、途中段階での方針転換は非常に苦労しましたが、BIPROGYさんやeiiconさんには親身になって協力していただきました。スタートアップ企業を探すところから仕切り直ししてもらい、大変感謝しています。

テーマを認知症に決めると、大槻さんも香川さんも、これまでの方針からすぐに切り替えて相談に乗ってくれました。短い期間で新たなテーマを深掘りして事業案を練ることに不安があったのですが、お二人に何度も会社に足を運んでいただいて、長時間に及ぶ打ち合わせをして伴走してもらったことで、ここまで形にできたと思っています。

大槻まさに、ここが力の入れ時だと捉え、しっかりと汗をかかせていただきました。成功するか失敗するかは別として、少なくともDiCEとして事業化の一歩手前までは持っていこう、ということはプロジェクトを進めている最中にも言い続けてきました。それが実現できたのはプロジェクト全体としても大きな成果だと思います。

山形私も、今回の朝日生命さまのプロセスはとても良いモデルケースになったと感じています。データ活用は実現可能な範囲が広いが故に、企画段階でさまざまなアイデアを詰め込みすぎてしまい収拾がつかなくなる事例も多いのです。その点をきちんと見定め、軸足を決めてスタートできたことが良い結果につながったのだと思います。

企業間データ連携を起点に生活者の課題解決を目指す

――DiCEでの取り組みをどう評価されていますか。

大槻プロジェクト立ち上げ当初はDot to Dotを活用したデータ連携を主軸にしていました。しかし実際に走り出してからは、各社の事情を第一に考えていきました。「汗をかく」というのは、相手の環境に合わせていくこと。たとえ新規事業創出という同じ目標を持っていても、企業によってある程度その道筋が見えていたり、課題の整理は未着手だったりと、そのフェーズは異なります。背景の異なる企業・人財をひとまとめにして、一斉にコンソーシアムとして推進しても成功にはほど遠い。今回、eiiconさんに参加企業ごとの担当者をアサインしてもらい、そこに私と山形も加わって各社の取り組みに深く関わりました。1社ごとにしっかり向き合い、各企業のフェーズに合った伴走をすることがとても大事なのだと再認識できました。

香川当初から見据えていたのは、最終的な事業化に向けて各社のプロジェクトがゆくゆくは事業化として期待ができるプロジェクトの骨格を作り上げること。そこに向けてブレることなく、いろいろな道をたどりながら、それぞれがプロジェクトの山を登っていけました。

写真:香川氏

杉山これまで新しいことをやろうとすると、「1対1」とか「このデータは渡せない」とつい考えてしまいがちでしたが、n対nといった複数者間でデータ連携するということの意識付けが変わりました。今は、2社と実証実験を進めていますが、今後もサービスを広げるために、データの取り扱いには最大限の配慮をしつつ、積極的にデータ連携による価値提供を目指します。

猪俣n対nのデータ連携で実現するソリューションを事業化する上で、お客さまにどう使ってもらうのか、どんな利便性を感じてもらうのかという最終的な価値提供の視点が必要だと気付きました。今回立ち上げた企画を確実に事業化するとともに、今後はアウトプットの視点も磨き、より良いソリューションにしていきます。また、プロジェクト推進段階では、ペルソナ作成や実証実験の検証といったところまで細やかに支援していただけたことが大きな励みになりました。

山形「データ連携基盤であるDot to Dotがこういうところに使えるんだ」と実感できたことが個人的にはうれしかったです。活用事例が1つ増えれば、次の使い道も見えてきます。その事例づくりができたことは、BIPROGYとしても大きな一歩だと思います。

香川企業間のデータ連携を増やすというのは、日本経済の発展という観点でもプラスに働くところは大きいと思います。Dot to Dotを活用したDiCEというプロジェクトを、単なるBIPROGYのソリューションとして提案するのではなく、取り組む事業の内容から一緒に考えて、汗をかいて伴走してきたからこそ、それが実現できたのではないでしょうか。

――最後に、DiCEの今後の展開についてお聞かせください。

大槻第1回の取り組みを通じて、事業化に向けて汗をかいて伴走することの重要性が証明されたように思います。だからこそ、今私たちが最優先に取り組むべきは今回の事業構想を推進し、事業化を実現すること。そのため、第2回以降のDiCEプロジェクト開催のことは今のところ考えていません。ですが、今回生まれた事業構想を育て、展開することで、こうした取り組みに参加したいと思ってくださる方々を増やせたならば、次回以降の実施も考えていきたいと思っています。併せてBIPROGYとしても、今回の取り組みがお客さまとのコミュニケーションの在り方、そして社会との関わり方の新たなロールモデルになれば、と期待を膨らませています。

写真:取材の様子

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